『老化を防ぐ方法』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり

 いま認知科学の視点から、現代人は文字や絵をかくのが苦手になっているということが問題視されています。その原因の一に、パソコンやスマホといった仮想空間の情報に接する時間が、現実の情報に接する時間を超えてきたという事実があります。そもそも認知とは現実の情報を把握して意味付けするプロセスのことであり、それはつまり自分自身で物事を情報化するということに他なりません。その認知能力が弱ければ、現実を視覚的に把握し再構成する力や、意味的な把握にも問題が起こります。
 文字や絵のバランスをうまく取ることが出来ないということは、文字や絵の全体をイメージとして把握する力に欠けているということです。各部分を全体に従わせることが出来ない。つまり文字や絵を上手く描けない状態と、いわゆる認知症の状態は似たところがあるということです。各部分の情報を集められても、全体の構成ができなければ意味のレベルを作り出せないということです。特に絵で全体のバランスをとって描けるかそうでないかは、認知機能の有無を示す分かりやすい指標といえます。
 一般論として画家は高齢になってもボケにくいと言われています。これは認知能力を日々鍛えているからと考えれば頷ける話です。このイメージによる認識と、さらに言語的な意味づけ(思考)を鍛えることで、認知能力は高まり、老化を遅らせる可能性がある。画家や絵を描く職業の人のなかでも、評論やエッセイなどの言語活動にも秀でた人が、長生きだったり、年齢より若く見える人が多いのは偶然ではないのかもしれません。この視点での研究はこれから進んでいくだろうと予想されます。

AUTOPOIESIS 166/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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