『個性と運命』⑤

 過去への執着を捨て、未来への好奇心が発動する内的環境をつくりだす。そうすることで狭い自己から脱出し、外から本当の自分の姿(個性)を眺めることが出来るようになる。ニーチェがいう「自分の運命を愛しなさい」という言葉に従うとすれば、このようなプロセス(自分の個性を知りそれを受け入れる)という内的な流れが、自然な川のように過去から未来へと絶えず流れ続けている必要があります。
 この過去へのこだわりから解放され「真の自己」を受け入れ自由になるというプロセスは、フロイトが精神分析とともに作り出した「心の病を回復させるプロセス」と良く似ています。偉大な哲学者であるニーチェはこのプロセスを、直感的に一言でいい表したのかもしれません。過去への固執は、心的な傷が原因であり、未来への一歩に躊躇するのもまた同じ理由だと考えられるのです。
 自分のことは自分が一番分かっている。だれもが暗黙にそう考えています。しかしもしそうであるならば、どうすれば自分にとって一番良いのかも熟知しており、それぞれが幸福な状態にあるはずです。しかし現実はそうではありません。自分のことは自分が一番分かっていない可能性がある。だからこそ自分を知るための行為が必要です。そしてその行為として生まれたものが「芸術」です。川の流れのように制作を続けることで、過去から未来へと内的環境を滞りなく循環させる。自己表現により「新しい自分」を知り続けることが「個性と運命」を受け入れる大きな手助けとなるのです。

「ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」  鴨長明『方丈記』

AUTOPOIESIS 219/ illustration and text by : Yasunori Koga
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