『シンボルの哲学』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり

(シンボル化は思考にとって本質的な行為であり、思考に先行する) S.K. ランガー

 サイン(記号)とシンボル(象徴)はどう違うのか。この二つを徹底的に区別して、シンボルの機能に焦点を当てたのがこのランガ―の主著『シンボルの哲学』です。
 サイン(記号)とはピクトグラム(たとえば非常口のマーク)のように、示す対象とサイン(記号)が等式の関係にある。A=Bのように取り違えは起こらない。よって、対象とサイン(記号)は入れ替え可能である。それに対してシンボル(象徴)は「対象の代理ではなく、表象化の担い手である」とランガ―は言います。つまり、ただの「鳩」が「平和の象徴」になるように、表現の仕方によって別のイメージを喚起させるものがシンボル(象徴)であるということです。
 サイン(記号)の場合は、言葉に近く、なかば強制的に示すものです。受け手に自由なイメージを促すことはありません。それに対してシンボル(象徴)は、具体的な指示ではなく、イメージを喚起させ想像力を刺激する。受け手に自由があります。別の言い方をすると、サイン(記号)は論理的な説明であり、シンボル(象徴)は、イメージの暗示、メタファーであるということです。
 サイン(記号)が対象を描写するのに対して、シンボル(象徴)は暗示する。つまりサインと対象の間には主観が入り込む余地はありません。しかしシンボルと対象との間には主観が入る。そしてそのことによって初めて有意味なイメージが生まれることになります。
 サイン(記号)を受け取って本能的に行動するのが動物の基本。そこから一歩進んでシンボル(象徴)を使用することが、動物と人間の境界線を越えることを示す、とランガ―は述べています。人間の本質であるシンボル機能を、先達のカッシーラやホワイトヘッドの研究を継承しつつも、更に一般化を試みた決定的な名著です。

book 030『シンボルの哲学』S.K. ランガー : Originally published in 1942
illustration and text by : Yasunori Koga
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