『意図した制作』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 絵には意図的に描かれたものと、結果的にそうなってしまったものと、二つがあります。前者は描く前からある程度の結果をさきに決定し、おおむねコントロールの範囲内で作品を作ります。それに対して後者は、最初の青写真があるとしても、描いているうちに計画とは違うプロセスができ、最後は思っても見ない作品ができる。結果だけ見れば、二つは同じ「作品」と呼べるものですが、制作過程で「描き手の中に起こっていること」がまったくちがいます。
 これはツアー旅行などで最初から全てが決まっていて、始まる前から予想がつく旅と、現地に行ってからその感触で行く場所を決めていく旅との違いです。ツアーは安心を得ることができる反面、冒険の余地がありません。余白や別の枝分かれを閉じられています。それに対して、現地での判断は、不安定な分、自由と冒険が保障され、意外性の余地がふんだんにあります。
 事前の計画によって得られる安心は、冒険や意外性を引き換えにしている。絵の制作の場合だと、計画と引き換えにするのは、進化に必要な突然変異を促す「偶然」です。逆に無計画で得られる自由や冒険と引き換えするのは、安定や安心です。生物の成長や物事の現状維持が「進化し続けること」でなされることを考えると、計画だけに閉じこもるのは危険だともいえます。安心や安全を基盤としつつも、そこに「自由」と「冒険」を組み込むことが「真の意味での安定」である。それは森羅万象がはっきりと示しているとこなのです。

AUTOPOIESIS 258/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

『二つの変化』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 変化を許容すること。この大切さは今さら言うまでもありません。文明が変化を拒んでいたら、私たちはいつまでも石器や土器を使っていたかもしれません。また子供のまま精神が変化しなければ、ただの幼稚な大人になってしまいます。変化は進化や発展の基盤であり、動物や植物にみられるように、生命維持そのものと言ってよいものです。
 しかし変化が生命や発展を阻害することもあります。たとえば前進すべき時に逃げるのは「悪い変化」です。自己や現実からの逃避もまっとうな方向からの「悪い変化」です。このように変化には「良い変化」と「悪い変化」があります。「良い変化」は現実的に進化や発展、生命や精神の維持に欠かせないものです。それに対して「悪い変化」は、進化や発展を阻害し、精神や生命を脅かすものです。
 人はときに疲れ、傷つき、臆病になることもあります。そんな時には「現実逃避」をしたくなる。現実へ戻れる程度なら問題はありません。しかし戻れなくなる「悪い変化」に依存すると問題が起こります。また世の中には、そういった傷ついた人の「逃避願望」を利用して、これを信じれば絶対に変われる、と「悪い変化」に依存させようとする人たちもいます。現実的な問題への対処が困難な人ほど、そういった口車に乗せられやすい。しかし現実は、何かをただ信じたり従ったりするだけで(お手軽な方法で)、自分自身が進化発展を獲得できることはありません。
 心が弱り絶対的なものを信じやすくなった時に、「悪い変化」を前進だと錯覚させる人たちが出てくる。これさえ守っていれば絶対に助かるといった「絶対」や「救済」の雰囲気、あるいは「成功体験の連呼」などはまさに逃避傾向の人を刺激する要素です。しかしそれらには論理的な正しさ(ウラ)もなく、直感的、美的にも怪しいものです。そういったものに自分を救済する絶対的な力があると思うとき、それは自己を捨てて「お手軽な変化」(妄想)にすがりついている時です。むしろ本当の「良い変化」とは自己や現実からの逃避(悪い変化)ではなく、現実や自己の受け入れからしか発生しません。この意味で、「悪性の変化」を退け、自己を健全に発展させるためには、「自分を信じる強さ」を獲得する以外に方法はないのです。

AUTOPOIESIS 257/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『有機的共同体』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 「類は友を呼ぶ」という言葉があるように、人は同じ趣味や考えの人たちと同質の集まりをつくります。同質傾向の集団は安定するので当然だと言えます。しかしあまりに同質すぎると、個々の違いが溶けてしまい、一つの水溜まりのようになります。またこの安定は、外部からの異質を受け付けないことで維持されるので、発展の要素に乏しい側面をもっています。
 よく海外に長期滞在したひとが、日本人の集まりにばかり顔を出し、その国の人たちと接点を持たない人がいます。この例は、同質傾向の「保守的なデメリット」が、わかりやすい形で現れています。これに対して、全く違った傾向の人たちとの集まりが、安定した形で存在できればどうか。お互いに影響を与え合い、相乗効果と相補性により掛け算的な発展があります。しかも水溜りにはならない。
 異質なもの同士を安定させるには、同質傾向の集まりよりも、はるかに高度な指標を必要とします。それには個々が集団に依存せずに、各自がソロでやれることが前提条件です。さらに即興的な協力関係にも対応できる。言うなれば個々の役割が固定化されたクラシックに対して、それぞれがソロプレイヤーでありテーマにはいると即興的に全体に参加するジャズのような「有機的共同体」です。異質傾向の共同体は、個性が溶けることなく全体と関係をもてる、高次元の共同体なのです。

AUTOPOIESIS 256/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『成熟と回復』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 生きているとたまに受け入れ難いことも起こってきます。そこでその経験を否定(抑圧)する。そうすると逆に心はそこに留まり、自然な心の流れを阻害するようになります。否定は肯定できないからで、肯定するには心の強さが必要です。よって何年も経ってから、過去が肯定できるようになる、ということはよくある事です。過去の経験にたいして受け入れの拒否を行うと、強いこだわりとしてその地点から「心的時間」の流れが止まってしまう。「物理的時間」は流れているので、この二つの時間の流れの乖離が大きいほど、心的な問題は深いと見ることができます。
 心的な時間が、ある地点での受け入れ拒否により止まってしまう。しかし物理的にそこから何年もの時間を経て、心が強くなり改めて受け入れが可能になる。すると、止まっていた心的時間は動き出し、今現在、進むことができなかったあらゆることが動き出します。車のタイヤが1箇所だけでもパンクしていると動けなくなるように、経験の一部に否定があると、全体がうごかなくなる。心的な肯定(受け入れ)は、パンクを直した状態に相当します。
 心的な強さを獲得することで、自己を守るために否定し、置き去りにしていた経験を肯定できるようになる。そして置き去りにしていた自分の心もまた、肯定できるようになり動き出す。これは過去の経験に対する「意味の再解釈」ともいえるし、「新しい価値の付与」ともいえます。今現在の前進にブレーキをかけている「過去の否定感情」は、自己防衛の強さ(心の弱さ)と比例関係にあり、「否定の解除」には精神的な成熟を必要とします。失われた時は、自己の成熟によって必ず回復する日がやってくるのです。

AUTOPOIESIS 255/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『中心軸について』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 人は何かの軸をつくり、それを中心に生きることで安定します。例えば規則正しい生活であったり、趣味であったり思想であったり。なんの基準もなく好き勝手を繰り返すと、不安定になり最後は破堤(カオス化)します。コマが回転することで安定するように、ブレない中心が必要。もし中心がブレてしまうと、回転は楕円を描き不安定になっていきます。あるいは軸をたくさん持っていて、そのつど替えるとすると、回転を毎回止めることになります。全体を一つの中心軸に沿わせないと、どうしても非効率で不安定になってしまう。
 もちろん軸がなくても生きてはゆけます。他の動物たちは軸をもたず、かわりに本能という基準に従い生きています。フロイトは、人間は本能の支配から自立へむかうがゆえに不安が発生すると言いました。よってこの不安こそが人間の証であり、本能支配へ逆もどりしないためにも、自分を律する軸が必要です。好き勝手に動かないように、自分が選んだ軸にそって自己を制御することで、初めて「人間としての安定」がある。
 中心軸になるものは、本能のレベル(生活)以外の、いわば本能を抑制し、制御する行為によって作られます。たとえばスポーツをする。段々と上手くなるのは、好き勝手を抑え、ルールをかりて自己制御が可能になった証拠です。また絵などの芸術でも同じです。運動や芸術に不可欠な基準は、ビジネス書などにあるようなルールと違い、人間にとってより普遍的なものです。なので自己制御のための基準として優れています。中心軸はやることの一貫性をたもち、分裂やカオスへむかう流れを抑えてくれます。一つの主軸を決定し力強く回転することで、全体が倒れることなく、長期的に安定するのです。

AUTOPOIESIS 254/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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