『女は女である』

古賀ヤスノリ イラスト

 “とってもつれない女”アンジェラは、デンマーク人のエミールと同棲中。ある日、半熟卵をつくる代わりに子どもがほしいと訴えるアンジェラ。 エミールは結婚してからだと突っぱねる。それでも食いさがるアンジェラ。誰でもいいならと、エミールは日ごろアンジェラにちょっかいを出しているアルフレードを呼びつけるのであった。
ジャン=リュック・ゴダールの監督第三作目にして初カラー作品。話はとてもシンプルな三角関係。そんな物語を、斬新な編集と、意表をつく音楽が屈折させていく。この手法が主人公アンジェラの移ろいやすい性格とマッチしていて面白い。トリコロールを基調とした洒落た美術は、ベルナール・エヴァン(シェルブールの雨傘)が手掛けたもの。「悲劇か喜劇かわからなくなったが、とにかく傑作だ」というエミールのセリフがそのまま当てはまる、愛すべきコメディーである。

vol. 035 「女は女である」 1961年 フランス・イタリア 84分 監督ジャン=リュック・ゴダール
illustration and text by : Yasunori Koga

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『フォックスキャッチャー』

古賀ヤスノリ イラスト

 レスリングの金メダリストである主人公は、大富豪ジョン・デュボンからの融資を受けレスリングチーム、フォックスキャッチャーの結成を任される。世界一を目指すために結成されたチームは、やがてデュボンの精神疾患によって生み出された「個人的な欲望」の渦に巻き込まれていく。
「カポーティ」、そして「マネーボール」という傑作を生みだしたベネット・ミラーの監督の最新作。冷たく重厚な形式。それにより物語そのものが、精神的な病理によって生み出されたことを暗示させる。漠然とした不安。どこで爆発するかわからない抑圧された空気。異常なまでに内面を描きだす恐るべき演技陣。破堤へと進む流れのなかに、人間が本来あるべき姿が見え隠れする。しかし事実に基づいて作られた本作は、あるべき姿を凍りつかせる結末を迎える。ベネット・ミラーは現代の病を地平とし、それを乗り越えるためにこそ、この映画を作ったのではないだろうか。

vol. 034 「フォックスキャッチャー」 2014年 アメリカ 135分 監督 ベネット・ミラー
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『複製された男』

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 ある日、映画のなかに自分そっくりの人物を発見する主人公。その人物は、自由奔放な生活を送る「もう一人の自分」であった。2人の遭遇はお互いの妻をも巻き込みながら、意表をつくラストへと吸い込まれてゆく。
注目の奇才、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とジェイク・ギレンホールが組んだ二作目。前作「プリズナーズ」ほどの完成度ではないものの、実験的な手法が随所に見られる前衛的な作品である。タイトル通り、複製された男との遭遇がメインとして描かれている。しかし、主人公が大学の講義で語る「支配の構造」がもう一つのテーマである。再三登場する蜘蛛。そして母親や妻のセリフが暗示しているのは、結婚制度と権力支配の関係である。フィルターを活かした極端な色調と、奇妙な音楽がSFのような雰囲気を作り出す。テーマを異空間に置き換えることで、事実を浮き彫りにする。驚くべき才能を秘めた監督による、最先端の試みがここにある。

vol. 033 「複製された男」 2014年 カナダ・スペイン 90分 監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
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『ロストチルドレン』

古賀ヤスノリ 

 一つ目族なるカルト教団によって、街から連れ去られる子供たち。 弟を連れ去られたサーカスの怪力男は、子供窃盗団の少女ミュエットと共に弟の捜索へと向かう。
世界的にヒットした「アメリ」の監督、ジャン=ピエール・ジュネが作り出した奇怪なダーク・ファンタジー。ストーリーはいたって単純。しかし博士が自ら作ったクローンや、こどもの夢を盗む老化の早い男など、深いメッセージ性に富む内容となっている。子供を連れ去る「一つ目族」とは、富や権力によって片目しか開けない「大人」のメタファーでもあるのだ。ジャン=ピエール・ジュネのまさに両目で作りあげた、イマジネーション豊かな快作。

vol. 032 「ロストチルドレン」 1995年 フランス112分 監督ジャン=ピエール・ジュネ
illustration and text by : Yasunori Koga

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『宇宙戦争』

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 地底から現れた巨大マシン。それは遠い昔に宇宙人によって埋められたものだった。科学の差によって圧倒される人間たち。なすすべなく逃げまどう中、少しずつ宇宙人の目的が 明らかとなっていく。
この映画はH.G.ウェルズの同名小説を映画化したもの。賛否両論あって、絶賛する人もあれば駄作という人もいる。個人的にはとても良い映画だとおもう。特に映像センスは抜群。名カメラマン、ヤヌス・カミンスキーのフレーミングと明暗のバランスは見事としか言いようがない。過去の大戦を彷彿とさせる情景。人間が狩られる側に立つことで、我々が動物へ行っている事を再認識させられる。あっさりしたラストも含め、自然淘汰を暗示させる生物学的な映画である。

vol. 031 「宇宙戦争」 2005年 アメリカ116分 監督スティーヴン・スピルバーグ
illustration and text by : Yasunori Koga

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