古賀ヤスノリ イラスト

『フォックスキャッチャー』

 レスリングの金メダリストである主人公は、大富豪ジョン・デュボンからの融資を受けレスリングチーム、フォックスキャッチャーの結成を任される。世界一を目指すために結成されたチームは、やがてデュボンの精神疾患によって生み出された「個人的な欲望」の渦に巻き込まれていく。
「カポーティ」、そして「マネーボール」という傑作を生みだしたベネット・ミラーの監督の最新作。冷たく重厚な形式。それにより物語そのものが、精神的な病理によって生み出されたことを暗示させる。漠然とした不安。どこで爆発するかわからない抑圧された空気。異常なまでに内面を描きだす恐るべき演技陣。破堤へと進む流れのなかに、人間が本来あるべき姿が見え隠れする。しかし事実に基づいて作られた本作は、あるべき姿を凍りつかせる結末を迎える。ベネット・ミラーは現代の病を地平とし、それを乗り越えるためにこそ、この映画を作ったのではないだろうか。

vol. 034 「フォックスキャッチャー」 2014年 アメリカ 135分 監督 ベネット・ミラー
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『isonomia』
★日々の思考→『AUTOPOIESIS』
★ブックナビ→『本と変分』