『引き裂かれた自己』

古賀ヤスノリ イラスト
「現実において行動せず、空想においてのみ行動する人は、彼自身非現実的となる」
(R.D.レイン)

 統合失調症の心理構造を、精神分析の言葉で「文節化」する手法に異を唱え、実存的な立場から現象学的なアプローチで患者の心理に迫る。それは冷たい専門用語による患者の「対象化」ではなく、いわば気持ちの通った視点による‟包含”と言ってよいものです。各部分を記述するのではなく、全体を包み込む。全体的な統一を欠いた統合失調症の人々にとって、そのような心で包み込むような形式自体が、分離した自己を回復させるものとなる。この本の最大の価値はそこにあると思います。大宅壮一の「一億総白痴化」ならぬ「一億総分裂」の危険性をはらむ現代において、本書はその最も有効な処方となる。この手の本にしては翻訳も圧倒的に読みやすい一冊。

book / 002『引き裂かれた自己』R.D.レイン: Originally published in 1960
illustration and text by : Yasunori Koga

古賀ヤスノリHP→『Greenn Identity』

『身ぶりと言葉』

古賀ヤスノリ イラスト

「進化はなによりもまず表現手段の進化である」
(アンドレ・ルロワ=グラーン)

 フランスを代表する文化人類学・先史学者の大書。人間がどのように進化し、道具と言葉、そして身ぶりという表現を使うようになったのか。それらが考古学的な状況証拠から推論されていく。顎を道具のように使っていた動物としての初期段階から、やがて手の使用と同時に、解放された顎は言葉を手にする。身体による身ぶりは言葉を支え、言葉は図示表現(絵)を支えていく。生物進化と表現進化の平衡性。これは3万年続く「絵画と文字の歴史」を推理するスリリングな書物でもあります。表現(芸術)の根本を探求する人にとって、まさに外すことのできない名著です。

book / 001『身ぶりと言葉』アンドレ・ルロワ=グラーン: Originally published in 1964
illustration and text by : Yasunori Koga

古賀ヤスノリHP→『Greenn Identity』

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