「現実において行動せず、空想においてのみ行動する人は、彼自身非現実的となる」
(R.D.レイン)
統合失調症の心理構造を、精神分析の言葉で「文節化」する手法に異を唱え、実存的な立場から現象学的なアプローチで患者の心理に迫る。それは冷たい専門用語による患者の「対象化」ではなく、いわば気持ちの通った視点による‟包含”と言ってよいものです。各部分を記述するのではなく、全体を包み込む。全体的な統一を欠いた統合失調症の人々にとって、そのような心で包み込むような形式自体が、分離した自己を回復させるものとなる。この本の最大の価値はそこにあると思います。大宅壮一の「一億総白痴化」ならぬ「一億総分裂」の危険性をはらむ現代において、本書はその最も有効な処方となる。この手の本にしては翻訳も圧倒的に読みやすい一冊。
book / 002『引き裂かれた自己』R.D.レイン: Originally published in 1960
illustration and text by : Yasunori Koga