主人公ドロシーは、すべてが灰色で退屈な日常から竜巻によって家ごと空へと運ばれる。そして色鮮やかな見知らぬ世界へと降り立つ。そこは魔法使いが支配する美しい世界だった。何不自由のない世界に住む人々は満ち足りて幸福そうだが、ドロシーはお家へ帰りたい。そこであらゆる願いを叶えるオズの魔法使いへ頼みにいく。しかしそこへ至る冒険をくぐり抜ける必要がある。つまり必要なものを手に入れる対価としての経験が暗示される。
アメリカ初の本格的なファンタジーとしてイギリスの「不思議の国のアリス」の35年後に生み出された物語は、アメリカらしい自立的で自己獲得的な展開が用意されています。途中で仲間になるカカシは脳みそを、ブリキの木こりは心を、そしてライオンは勇気を手に入れたいと冒険に参加する。これまで発達させてこなかった側面を、新しいことに挑戦することで獲得していく道のりは、自己実現のプロセスと重なっています。
この物語は大袈裟にいえば、人類の進むべき道を暗示しているようです。カカシが必要とした脳みそ(考える力)によって自由に行動し道具を発達させ、自然を切り拓いた人間は、いまブリキの木こりの問題に直面している。ブリキの木こり(目的だけの機械)は、心をうしない好きだった人を愛せなくなった経験から、脳みそは幸福を作らないと言い、心が手に入るのならどんな不幸も耐えるよと語ります。失ったものを獲得するためには新たな冒険が必要で、そのためには勇気も必要になる。そしてなにより竜巻という偶然によって出会った仲間が冒険には欠かせない。時代を越える普遍性を秘めた傑作ファンタジー。
book 032『オズの魔法使い』ライマン・フランク・ボーム : Originally published in 1900
AUTOPOIESIS 178/ illustration and text by : Yasunori Koga
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