『成熟と回復』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 生きているとたまに受け入れ難いことも起こってきます。そこでその経験を否定(抑圧)する。そうすると逆に心はそこに留まり、自然な心の流れを阻害するようになります。否定は肯定できないからで、肯定するには心の強さが必要です。よって何年も経ってから、過去が肯定できるようになる、ということはよくある事です。過去の経験にたいして受け入れの拒否を行うと、強いこだわりとしてその地点から「心的時間」の流れが止まってしまう。「物理的時間」は流れているので、この二つの時間の流れの乖離が大きいほど、心的な問題は深いと見ることができます。
 心的な時間が、ある地点での受け入れ拒否により止まってしまう。しかし物理的にそこから何年もの時間を経て、心が強くなり改めて受け入れが可能になる。すると、止まっていた心的時間は動き出し、今現在、進むことができなかったあらゆることが動き出します。車のタイヤが1箇所だけでもパンクしていると動けなくなるように、経験の一部に否定があると、全体がうごかなくなる。心的な肯定(受け入れ)は、パンクを直した状態に相当します。
 心的な強さを獲得することで、自己を守るために否定し、置き去りにしていた経験を肯定できるようになる。そして置き去りにしていた自分の心もまた、肯定できるようになり動き出す。これは過去の経験に対する「意味の再解釈」ともいえるし、「新しい価値の付与」ともいえます。今現在の前進にブレーキをかけている「過去の否定感情」は、自己防衛の強さ(心の弱さ)と比例関係にあり、「否定の解除」には精神的な成熟を必要とします。失われた時は、自己の成熟によって必ず回復する日がやってくるのです。

AUTOPOIESIS 255/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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