『幸運な一致』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Kogaイラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 物事にはルールがある。例えばスポーツならテニスやバスケットにはそれぞれのルールがある。ルールは守るべきものなので制限ということもできます。なのでテニスが好きとかバスケットが得意とかいった好みは、受け入れるべき制限が自分の性質に合っているということです。これは芸術でも同じく、絵画や音楽、詩や彫刻といったシャンルは受け入れる制限の違いであり、どれが好きかはルールが自分に合っているかどうかで決まります。
 ルールや制限により出来上がるのが仕組みであり構造です。たとえば面白いゲームや良質な組織、美しい建築には良い構造がある。この構造とそれに関わるひとの性質の相性がよければ、そのジャルで才能が発揮されることになります。上手くいかない場合は、選んでいる構造が自分に合っていない可能性がある。どちらにしろ制限の受け入れは「自己制御」や「自己抑制」を強いるので、それらの力が弱いと制限の受け入れが難しくなり、構造を逆利用して力を発揮することが難しくなります。
 構造とそこに関わる人の性質との間に「幸運な一致」があったとき、素晴らしい現象が起こります。人の才能は開花し、またそのジャンルの魅力が引き立ちます。これは構造や制限が良いからというだけでも、個性が優れているからというだけでもなく、二つが「幸運な一致」をみているからこそ起こる現象です。なのでどのジャンルが人気があるとか、他人が上手くいっているから自分も同じ構造でやろう、といった一般論では上手くいかない。「自分の性質に合った構造」を自ら探すことでしか「幸運な一致」は生まれません。そしてそのためには「本当の自分」(あるがままの自分)をよく知っておく必要がるのです。

AUTOPOIESIS 238/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

【決定論について】

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Kogaイラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 樹の枝からリンゴがぽとりと落ちる。万有引力というものがあるので、枝から切り離せばリンゴは必ず地面に落下します。落下の原因は枝から切り離したことであり、原因と結果が連続してつながっている。この原因と結果を因果的につなげる考え方を因果論と言います。過去(原因)と未来(結果)を結びつけ決定してしまうので決定論ともいいます。決定することでそれを逆算して、結果のために原因を操作的に作り出す。このおかげでロケットは月まで行くし、同じ機械は同じ機能を発揮できます。
 しかし、例えばある人がAという学校を卒業して幸福になったとして、それを見たひとがAを卒業することが幸福になる方法だと、因果的に繋げて決定するとおかしなことになります。人が違えば同じことをしても結果は違ってくる。実際は「結果があるときだけ原因を特定できる」だけで、二つを結びつけて逆算などできなません。しかしこういった決定論が社会に蔓延してもう長い月日が経っています。
 さらにこの決定論的な考え方は、人々のやる気や好奇心も減退させます。未来(結果)を先に知ってから始めないと不安というのは、因果論や決定論に支配されている証拠です。しかし推理小説が示すように結末を知ってしまうと好奇心を維持するのは難しい。ネット時代はなんでも簡単に結果(答え)を知ることができるので、決定論的な世界観に入りやすい。決定論とは実は出口のないなパラドックスの構造で、その中に入ると決定した世界から出られなくなってしまう。絵の描き方から人生の歩み方まで「ああすればこうなる」式の決定論を捨てたときから、本当の意味での未来の豊かさが現れてくるのです。

AUTOPOIESIS 237/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

『アリストテレスの定義』

イラスト こがやすのり Yasunori Koga

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスの言葉に「生命は動きにやどる」というものがります。言い換えると「動きによって維持される」のが生命とう存在です。栄養の摂取から新陳代謝に至るまで、生きる基本的な行いはすべて動きによってなされます。当然ながら動きが完全にとまってしまうと生命は尽きたことになります。これは物理的な身体だけでなく、精神面も実は同じです。いろんな知識を得たり、それを咀嚼して自分のものにするといった思考の運動が止まると精神も尽きてしまう。
 動きによって生命が維持され、その営みが止まると命は尽きてしまう。これは別の角度から見ると「最後に尽きてしまうもの」が生命、ということもできます。花はやがて枯れるから生命である。パソコンやスマホの中の花は枯れません。花が枯れる映像はありますが、その映像情報は固定したまま壊れません。つまりデジタルの世界は動いているようで動いていない。なのでアリストテレスの生命の定義を満たしていません。この反生命に依存した情報化社会は、便利な反面人々をアリストテレスの定義外へと追いやりはじめました。枯れることを恐れ、動くことや考えることも敬遠しがちになっている。
 このような社会批判のような視点がもはや無意味と思えるほど、社会はどうすることもできないほど画一的にデジタル依存へ向かっています。そしてその傾向は「動き」を抑制していく。反省や修正を含む「変化」をかたくなに拒むことで発生する問題はあらゆる所で噴出しています。しかし飽和した状況を打開するには「進化」しかなく、それは「変化」という動きなしには生まれません。必ず大きな変化が必要になる時がやってくる。そのカタストロフィにアジャストできるのは、日頃から「変化」に寛容な柔軟性のある生命だけです。変化する自己だけが、化石化をのがれアリストテレスの定義を満たし続けるのです。

AUTOPOIESIS 236/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』

『6割の原則』

イラスト こがやすのり Yasunori Koga

 物事は上手くいったりいかなかったり。だからこそ上手くいったときは嬉しいし、挑戦する価値もそこにあります。なんでも思い通りにいく世界があればよいのですが、実際のところそれは非現実的な世界です。よって上手くいかないことをすべて排除しようとする考え方も、非現実的だと言えます。
 たとえばスポーツで連戦連勝を重ねていたとします。負けなしが続く。しかしそれは長続きしません。必ず時間軸をのばしていくと勝率は平均値まで落ちていきます。つまり短期的な結果と、長期的な結果は違ってくる。そして生き残るには長期的に安定しているほうがいい。
 長期的に安定し、なおかつ平均を少し上回る状態を維持する。それがある意味では最も実力がある人だと言えます。勝負ごとではよく6勝4敗でずっと続けている人が真の実力者であると言います。連戦連勝の人はその後、連敗する可能性がある。よってそもそも全勝に固執することが、考え方として誤りなのです。つねに6割上手くいけばいい、というスタンスでいく。4割は失敗でもいい、いや4割の失敗が必要だと。そうすると過度な失望や自己否定も起きにくく、本来の実力も自然に出やすくなります。成功という概念自体が、失敗を必要とする概念なのですから。

AUTOPOIESIS 235/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』

『絵を長く続ける方法⑤』

イラスト こがやすのり Yasunori Koga

 はじめて車を運転するとき、ハンドルを意識し、前方をみてサイドミラーやバックミラー、さらにアクセルとあらゆるところを意識することになります。しかし慣れてくるとなにも意識せずほとんど直感と無意識で操作します。これは泳ぎや歩行なども同じです。もしそうではなく全てに意識をめぐらせていると一日もたないでしょう。すべてを意識し計画的にやることは実は精神的なストレスにもつながってきます。
 絵を描くときも同じことが言えます。すべてを計画的に、あらゆるものを意識して操作的にやることで、その副作用としてのストレスが蓄積します。絵もある程度は泳ぎのように、直感や無意識に任せる部分があるほうがいい。オートマチック化したほうがラクだし“正確”でもある。これは不思議ですが事実です。歩行などを意識して行うと返ってぎこちなくなることと同じです。直感も使って絵を描くには、それなりの訓練が必要ですが、身についてしまえば、意識と無意識のバランスを配分しながら描けるようになってきます。これも「メタ技術」の一つです。
 絵を長く描き続けるために必用なことは、まずは「自分の絵」(自分の世界観)を認識し大事にすることです。それは自分が生きる世界に対する興味にもつながり、自分自身や他人に対する興味ともつながってきます。そこから表現したいものが生まれ、技術や感性を磨くことでスムーズに外へと表現されていきます。そこからさらに「メタ技術」を獲得し「創造の経済性」のもとペース配分をしていく。今回は触れませんでしたが、「自分に合った環境」や「絵の仲間との相性」なども重要な要素です。それらの“バランス”の上に「絵を長く続ける方法」が成立していくのです。

AUTOPOIESIS 234/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』

Scroll to top