
創造性へのアクセスにより「現実を相対化」し後退させる。この方法は自分が後退して現実のストレスから逃れようとする「逃避」と似ていますが問題はありません。むしろ進化や思わぬ発展につながる良性の方法です。創造性へのアクセスに欠かせないのが「自分自身」という基盤です。これは思いのほか捉えるのが難しい。たとえば自分で選んでいると思っていても、どこかで世間の価値観や親の顔色をうかがっていることを忘れている。あるいは本音の行動には責任が付きまとうので、それを避けるために逆の行動すらとることがあります。つまり自分以外への「忖度」が「本当の自分を知る」邪魔をしている。
問題は忖度だけではありません。人間には意識ともう一つ無意識というものがあります。心理学が明らかにするように無意識の領域のほうが大きく、その意味では無意識にこそ自分の本音が抑え込まれている。フロイトは抑え込んだものが無意識化すると述べています。そしてこの抑え込まれた無意識を知る一番の手立てが夢の解釈だとしています。見た夢を象徴的に解釈していく。もう一つが自由連想で、イメージを自由に忖度せずに物語っていく。ユングはそこに非言語による箱庭や絵などの創作を指摘しています。つまり創作することが自己の無意識を知る唯一の手立てだということです。
夢は無意識が作り出しています。誰の手も借りず自分で作っているという意味では自分の創造物です。絵を描いたりコラージュを作ったりすることも同じです。ただし無意識を使うことで夢と同じレイヤーの創造性が実現される。別の言い方をすると、意識的に計画的に作るだけでは無意識にアクセスできないということです。無意識や直感を含む創作とその自己分析によって、本当の自分が分かってくる。暗黙の忖度をどう除去し、損得を越えて自分自身を再発見していくか。うまく発見できればそこには、分裂の一切ない「心の静寂」と「安らぎ」があることは間違いありません。
次回は「本当の自分」に化学反応をもたらす「意味のある素材」について考察していきます。
AUTOPOIESIS 271/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』