『タクシードライバー』

 この映画はロバート・デ・ニーロの表情に全てが込められている。監督のマーティン・スッコセッシは、監督にならなければ牧師になっていたというだけあって、善悪をありきたりの二分法では描いていない。脚本はホール・シュレーダー。脚本が完成した時点で傑作であることを確信したらしく、あとは誰に撮ってもらうかの問題だったらしい。しかし実際は予想をはるかに越える出来となったのではないか。血のしたたるような傑作

vol. 007 「タクシードライバー」 1976年 アメリカ114分 監督:マーティン・スコセッシ
illustration and text by : Yasunori Koga

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『スケアクロウ』

 アメリカン・ニューシネマを語るうえで、欠かせない映画がいくつかある。「イージーライダー」や「タクシードライバー」、そしてこの「スケアクロウ」もその一つだ。若き日のアル・パチーノとジーン・ハックマンの演技が胸を打つ、不器用な二人のロードムービー。アルトマンの「ロング・グッドバイ」を撮り終えたばかりの名カメラマン、ヴィルモス・スィグモンドの撮影も素晴らしい。観終わったあとに何とも言えない余韻が残る名作。

vol. 006 「スケアクロウ」 1973年 アメリカ113分 監督:ジェリー・シャッツバーグ
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『ストリート・オブ・クロコダイル』

古賀ヤスノリ イラスト

 この作品はポーランドの作家、ブルーノ・ジュルツの「大鰐通り」を映像化したもの。朽ち果てた人形やネジ、ゴムたちが、命を宿したかのように動きまわる。幻想のようなしかしリアルな世界。この世界はクウェイ兄弟ならではとおもわれているが、実はシュルツの小説そのままと言ってもいいくらいだ。クエイ兄弟が以前からこの小説に影響を受けていたことがよくわかる。

人形をコマ撮りした、ストップモーションの映画なので全てが作り物。しかし、どこか現実以上に現実的なところがある。このような映像を芸術と呼ばずして、なにが芸術なのだろうか。

vol. 005 「ストリート・オブ・クロコダイル」 1986年 イギリス22分 監督:ブラザーズ・クエイ
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『カルパテ城の謎』

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 婚約者をさらわれたオペラ歌手テレック伯爵。その傷を癒すべく療養地として訪れた村で、人々から怖れられる「カルパテ城」の奇怪な噂を耳にする。興味を惹かれカルパテ城へ向かうテレック伯爵。その行く先で待ち受けるのは、婚約者をさらった奇人、ゴルツ男爵であった。

コメディー×(オペラ + 博物趣味 + SF)。これがこの映画を表す式である。ジュール・ヴェルヌの小説を下敷きにしているだけあって、地底、海底、宇宙のメタファーが、過去とも未来とも言い難い世界にちりばめられている。
この映画の見所は、主役のとぼけたオペラ歌手と、敵役であるゴルツ男爵の変人ぶりであろう。また美術を担当するのは、チェコのシュールレアリスト、ヤン・シュワンクマイエル。彼がデザインする奇妙な小道具の数々を見るのも楽しみの一つだ。監督のオルドリッチ・リプスキーは、つねに一風変わった世界を見せてくれるチェコ映画界の巨匠。 テリー・ギリアムやジャン・ピエール・ジュネの東欧版といったところか。この映画以外にも「アインシュタイン暗殺指令」や「アデラ、ニック・カーター、プラハの対決」が同じ傾向の傑作である。あの寺山修司やクローネンバーグ も愛したリプスキーの世界を、映画好きとして堪能しない訳にはいかない。

vol. 004 「カルパテ城の謎」 1981年 チェコ99分 監督:オルドリッチ・リプスキー
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『ローマ』

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 フェリーニの記憶とともに甦る“フェリーニのローマ“。それはイマジネーションの噴出の記録である。カエサルが渡ったルビコン川。そしてローマ行きの列車へ思いをはせるフェリーニ少年。彼はいつしかその列車にのってローマへと旅立つこととなる。

フェリーニの自伝的内容を、少年期・青年期・現代の三部構成で描いた記憶のカットアップ。フェリーニを巨匠にまで育てあげた街ローマ。その圧倒的なイメージの連続は、自伝的内容をこえてまさにファンタジー。自伝が幻想化していくような映画は、タルコフスキーやパラジャーノフの映画にもある。しかしその中にあってこのフェリーニのローマは特にエネルギッジュで心を熱くさせる。映画の中盤で自ら登場するフェリーニが、若者たちに語りかける言葉にこの映画の本質がよく表れている。「映画は理論ではない!」。映画が芸術であることを証明してくれる、映画史に残る傑作。

vol. 003 「ローマ」 1972年 イタリア120分 監督:フェデリコ・フェリーニ
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