妻子を捨てて失踪した主人公トラヴィス。彼は空白の四年間を背にふたたび弟の前に現れる。 不在だった四年間の出来事を受け入れていくトラヴィス。そして再開した息子とともに、姿を消した妻をさがす旅へと向かう。
映画ファンの間では不動の人気を誇るロードムービー。心を閉ざした主人公と、テキサスの乾いた大地が独特の雰囲気を作り出す。ロビー・ミュラーの撮影も実に美しい。ハリー・ディーン・スタントンやナスターシャ・キンスキーの演技も秀逸だ。カンヌでもパルムドール受賞ということで、世界が認める一作である。しかしこの映画は「現実からの逃避」を正当化するような見方が出来るという点に、誤解を生む要素を秘めている。実際この作品全体が語るのは「逃避の末路」である。つまり多くの人々が敬遠しがちな悲劇の物語なのだ。
vol. 029 「パリ・テキサス」 1984年 西ドイツ・フランス 147分 監督ヴィム・ベンダース
illustration and text by : Yasunori Koga