初期から現在に至るまで、良質な作品を撮り続けるジム・ジャームッシュ監督の11篇オムニバス映画。1話10分程度で全篇モノクローム。話の繋がりはないが、タイトルが示すとおり、コーヒーとタバコが一つのテーマとなっている。それ以外でほぼ共通するのはテーブルに見られるチェス版のような白黒の格子模様。しかしそれらの共通項がストーリーの独立性を阻害することはない。
どのストーリーも対話(チェス)が基軸となり、会話の内容は取るに足らないものばかり。しかしこの無内容さ自体を対象化したスタイルは、ジャームッシュお得意のシュールな“間”の秘密でもある。無意味さが無色(モノクローム)で統一されることで、全篇をとうして情緒を排したナンセンスな構造が維持されている。つまり一般的な対話(物語)の「情緒的な完結」が巧みにかわされているのだ。
完結を巧みにかわす。未完成なありかたは、11話すべてにみられる対話の「すれ違い」に凝縮してあらわれる。この「すれ違い」は文化的、趣味的、人種的、思わく的な前提の違いからおこる。取りとめのない会話と「すれ違い」の間、そしてその「すれ違い」こそがチェスのように新たな対話を生むキッカケであることに気づく。それらすべてをカフェ的な軽さで描いた、ジャームッシュのデッサン的な秀作。
050「コーヒー&シガレッツ」 2003年 アメリカ 監督:ジム・ジャームッシュ
AUTOPOIESIS 125/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』