『サウンド・オブ・メタル』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり
【ストーリー】

ドラマーのルーベンはヴォーカリストのルーとバンドを組んでいる。二人は恋人同士でありトレーラー暮らしでツアーを回っている。ある日ルーベンに聴覚障害が現れ、爆音環境であるバンド活動が障害を進行させるというパラドクスに陥る。バンド維持を切望するもルーの説得により、聴覚障害者の支援施設へ向かう。そこでルーは手話と聴覚障害者の基本的な生活スタイルを学んでいく。そしてある日、手術を受け以前の聴覚を復活させようと試みる。

【ノイズと静寂】

依存関係にある二人は音楽(メタル)によって自己を表現している。お互いに過去に傷があり、バンド活動によって内的葛藤のバランスを取っている。しかしルーベンの聴覚障害によりその構造が崩れてしまう。それまでノイズを生み、ノイズを浴びることが自己逃避にもなっていた彼にとって、バンド活動の停止は人生の停止に等しい。しかし世界で唯一信頼できるルーの説得により、バンドの休止を受け入れ施設へ入る。そこで手話という静寂のコミュニケーションを獲得していく。これはノイズによるコミュニケーションの真逆であり、そこに全体性の回復が暗示されている。その獲得には内的にも真逆の価値観を要求されることになる。手話と聴覚障害者の生活スタイルを徐々に受け入れていくことで、ルーベンは内面的にも変化していく。ノイズがノイズとなり静寂が静寂となる。ルーベンは覚悟を決めルーと再びバンドを再開しようと動きだす。そして本来の自分たちの姿で対面することになる。本来の自分とはなにか。自己表現と自己実現とは。そして「聞こえるということはどういうことなのか」をリアルに体感させられる稀有な作品。

AUTOPOIESIS 107/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

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