『パンドラの箱』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Kogaイラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 ギリシャ神話には「パンドラの箱」という有名な話があります。ゼウスに決して開けてはならぬと言われた箱を開けてしまい、中からあらゆる災い(災害や戦争、嫉妬や暴力など)が噴出し地上に蔓延してしまう。しかし最後に「希望」だけがかろうじて箱に残ったという話しです。この結末を前向きに解釈すれば、どんなに世界に悪がはびころうとも「希望」さえ持ち続ければ、それらに対抗しうるというメッセージとも受け取れます。
 そもそもパンドラの箱の中には、たくさんの悪と一緒に「希望」もごちゃまぜに入っていたことになります。この状況は善悪の区別がない未分化な状態であり、心理学的にいえば「自他未分化」で「全能感に満たされた状態」を意味します。つまりこの世に生まれる以前の、母体の中にいる胎児の状態です。なのでパンドラの箱を母体を示すものとみることができます。
 人は外へ生まれ出る前の「全能感に満たされら状態」から、外へ生まれ出ることでこの世に誕生する。全能感の状態から、思い通りにいかない世界に引き出され泣くことになる。パンドラの箱から出た世界には、あらゆる障害物があらわれる。それがこの世に誕生するということ(障害物を越える喜びも同時に発生する)。そういった現実に対し「希望」を持ち続けることで、はじめて全能感と引き換えにできる世界を手にすることができるのです。

AUTOPOIESIS 240/ illustration and text by : Yasunori Koga
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