『逃亡者』

古賀ヤスノリ イラスト

 月並みなハリウッド映画は10年たてば古びて見れなくなる。しかしこの「逃亡者」は今見ても十分面白い。 なぜこの映画の賞味期限は切れないのか。その答えは、「無実の罪をはらす」という絶対倫理に訴えるストーリー。そしてトミー・リー・ジョーンズ(以下T・ジョーンズ)の熱のこもった演技に、時代を超えた普遍性があるからだろう。 特にT・ジョーンズ扮する連邦保安官ジェラードの活躍ぶりは見ごたえ十分である。のちにジェラードを主役とした映画が作られたほどだ。 無言の演技が冴えるハリソン・フォードも、この映画ではジェラードの引き立て役にすぎない。

監督はアンドリュー・デイビス。彼は以前にも「沈黙の戦艦」や「ザ・パッケージ」(これも地味だが面白い映画)で T・ジョーンズを起用しているが、どちらも悪役だった。この映画のヒットにより、T・ジョーンズは悪役が無くなっていくと同時に、スターへの階段を駆け上がっていくことになる。トミー・リー・ジョーンズというスターはこの映画から生まれたのだ。

vol. 002 「逃亡者」 1993年 アメリカ 131分 監督:アンドリュー・デイビス
illustration and text by : Yasunori Koga

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『レイジング・ブル』

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 実在のプロボクサー、ジェイク・ラモッタの半生を描いたマーティン・スコッセッシ監督の代表作。 まず、この映画のどこが面白いのかといえば、やはりラモッタ役のロバート・デ・ニーロと弟役のジョー・ペシのエネルギーに満ちた演技である。 特にデ・ニーロは役作りのために25㎏も太り、自らを巨漢にしてしまうほどの凝りよう。そんな映画がつまらない訳がない。 カラーの時代に意図して撮られたモノクローム。これが驚くほど美しい。名カメラマン、マイケル・チャップマンのベストワークでしょう。
スコセッシ監督は主人公をプロボクサーとしてではなく、一人の人間という視点で描き切っている。 人が避けがたい人生の流れのなかで、どのようにもがき、そしてどのように現実を受け入れていくのか。 ボクシングシーンの切れ味するどい編集も見逃せない。

「レイジング・ブル」 1980年 アメリカ 129分 監督:マーティン・スコセッシ
illustration and text by : Yasunori Koga

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