『ノーカントリー』

 枯れた大地の広がるメキシコ国境地帯。そこで展開される時を越えた追跡劇。
公開当時に話題となった情なき殺人鬼は、アメリカ先住民のヘアースタイル。他の主要人物はみなカウボーイハットという出で立ちだ。この縮図は故郷を奪われた者の復讐劇という テーマを匂わせている。監督のコーエン兄弟がユダヤ系(ユダヤ人は故郷を喪失している)ということもあり、この物語にある種の共感をもって演出したのかもしれない。撮影監督はコーエン作品の常連、ロジャー・ディーキンス。彼の美しい映像が、あまりにも冷たい物語を芸術にまで高めている。

vol. 015 「ノーカントリー」 2007年 アメリカ 122分 監督:ジョエル/イーサン・コーエン
illustration and text by : Yasunori Koga

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『ストーカー』

古賀ヤスノリ イラスト

 「ゾーン」と呼ばれる立ち入り禁止区域。そこには願いが叶うとされる部屋がある。案内人”ストーカー”は、作家と科学者を連れて「ゾーン」へ向かう。しかし、政府の厳重な警備と「ゾーン」そのものの性質により事態は予測不能な方向へと発展する。
「惑星ソラリス」に続くタルコフスキー監督のSF映画。しかしここにSFらしき風景は微塵もない。「ゾーン」は美しい風景によって表現され、その美しさは映画史に残るほどのものである。この「ゾーン」は一体なにを意味しているのか。立ち入り禁止区域が存在する日本にとって、今や無視できない映画である。

vol. 014 「ストーカー」 1979年 旧ソビエト 164分 監督:アンドレイ・タルコフスキー
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『軽蔑』

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 難解と言われるゴダールの映画。しかしこの「軽蔑」は比較的にシンプルでわかりやすい。ある脚本家が映画製作に携わり、 その過程で精神が崩れはじめる。それは私生活へも影響を及ぼしていく。ゴダールの当時の私生活がそのまま演出に活かされている。その意味では生々しい映画だ。映画の導入部分で引用される「映画とは欲望がつくる 世界の視覚化である」という評論家アンドレ・バザンの言葉がこの映画の全てである。映画製作に対する”代償”を描いた傑作。

vol. 013 「軽蔑」 1963年 フランス・イタリア 102分 監督:ジャン=リュック・ゴダール
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『孤独の報酬』

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「ifもしも」で知られるリンゼイ・アンダーソン監督の長編映画一作目。身の丈に合わない女性を我が物にすべく、炭坑夫からラグビー選手へと転身する男。しかし階級という見えない構造はそれをゆるさない。
この映画は丁寧な心理描写とリチャード・ハリスの熱っぽい演技が魅力である。日本映画にヒントを得たであろう音楽もすばらしい。現実と過去を行き来する時間の流れも、主人公の葛藤を上手く表現している。勝つはずのない勝負へ挑む主人公は、苦悩の果てに何をみるのか。

vol. 012 「孤独の報酬」 1988年 イギリス 134分 監督:リンゼイ・アンダーソン
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『ある殺人に関する短いフィルム』

古賀ヤスノリ イラスト

ある殺人者とある弁護士の物語。人はなぜ殺人を犯してしまうのか。そして殺人者を裁くことができるのか。映画の冒頭で弁護士はこう独白する「刑罰は復讐である」。
特殊なフィルターで撮影された、暗く視界の狭い映像。殺人者の心理と弁護士の苦悩がセリフではなくこの映像のスタイルによってダイレクトに伝わってくる。 これほど無駄のない手法で撮られた映画はそうそうお目にかかれない。ヘビーな主題だけに見る側も覚悟を必要とするが、ラストで胸をうたれること請け合いである。

vol. 011 「ある殺人に関する短いフィルム」 1988年 ポーランド 84分 監督:クシシュトフ・キェシロフスキ
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