『不完全な美』

イラスト こがやすのり

 古来、日本人は不完全なものへの美意識を大切にしてきました。誰もが知る吉田兼好の徒然草に「花は盛りに、月は隈なきをのみ見るものかは」とあるように、満開の花や満月を見るだけが花や月をみることではなく、欠けた月や満開でない花にも美しさがあるということです。この不完全なものに対する美意識は、完全性や対称性を美の基準とする西欧的な意識とは違ったものです。
 そもそも西欧の「完全な美」とは物質的なことを意味しています。それに対する「不完全な美」とは物質ではなく感じる側の心にある。なので「不完全な美」は人それぞれに違ったかたちで存在しています。個々の想像力がそこに加わることによって、多様な美しさが生まれてくる。
 夜空の満月や満開の花は、ある意味では見たままの美しさです。それに対する欠けた月や満開でない花は、見る人の想像力を刺激し、美と一体化することが出来る。このような美意識は、不完全な日常(無常)に美を見出す「善」や「茶の湯」の精神によって、日本人へ溶け込んでいきました。この「不完全な美」は私たち日本人にとって普遍的な価値観の一つなのです。

AUTOPOIESIS 198/ illustration and text by : Yasunori Koga
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