『キングダム』

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 デンマークの巨大病院を舞台に起こる奇怪な現象。忌まわしい過去と病院の関係が明らかとなるにつれ、隠蔽された事実と同化していく登場人物たち。この物語は、主要人物を演じる役者の死によって撮影中止となる。
鬼才、ラース・フォン・トリアー監督が手掛けたテレビシリーズ。94年当時、デンマーク番ツインピークスと言われ、本国デンマークで驚異的な視聴率を誇ったカルトなドラマ。不安を掻き立てるカメラワークと、全編セピアの脱色彩感覚。精神分析としての「抑圧と回帰」が、哲学としての「隠蔽と真実」に対応する凄さ。映画でしか伝えようのないある感覚を、この時期のラース・フォン・トリアーは確実に持っていた。役者の死によって未完に終わった、他に類をみない伝説的な傑作。

vol. 037 「キングダム」 1994-97年 デンマーク 570分監督 ラース・フォン・トリアー
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』

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ある任務を遂行すべくあらわれたエイリアン。人間の女性に擬態し、次々と男を暗闇に誘い込んでいく。しかしある男との接触を期に、無機的なリズムは有機的な展開を見せ始める。
エイリアンから見た地球の風景。そして人間の行い。日常が異化された映像は見る者にある「気づき」をもたらす。人間とコミュニケーションを取るうちに芽生える感情。ただ行為する者から一つの意思をもった存在へ。その境界線に立ちはだかる壁が最大のテーマなのかもしれない。ジョナサン・グレイザーによる、いま最も先鋭的な表現形式。 ミカ・レヴィの前衛的な音楽も時代を突破している。歴史的傑作であることを直観させる一作。

vol. 036 「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」 2014年 イギリス 108分 監督 ジョナサン・グレイザー
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古賀ヤスノリHP→『isonomia』

『女は女である』

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 “とってもつれない女”アンジェラは、デンマーク人のエミールと同棲中。ある日、半熟卵をつくる代わりに子どもがほしいと訴えるアンジェラ。 エミールは結婚してからだと突っぱねる。それでも食いさがるアンジェラ。誰でもいいならと、エミールは日ごろアンジェラにちょっかいを出しているアルフレードを呼びつけるのであった。
ジャン=リュック・ゴダールの監督第三作目にして初カラー作品。話はとてもシンプルな三角関係。そんな物語を、斬新な編集と、意表をつく音楽が屈折させていく。この手法が主人公アンジェラの移ろいやすい性格とマッチしていて面白い。トリコロールを基調とした洒落た美術は、ベルナール・エヴァン(シェルブールの雨傘)が手掛けたもの。「悲劇か喜劇かわからなくなったが、とにかく傑作だ」というエミールのセリフがそのまま当てはまる、愛すべきコメディーである。

vol. 035 「女は女である」 1961年 フランス・イタリア 84分 監督ジャン=リュック・ゴダール
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『フォックスキャッチャー』

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 レスリングの金メダリストである主人公は、大富豪ジョン・デュボンからの融資を受けレスリングチーム、フォックスキャッチャーの結成を任される。世界一を目指すために結成されたチームは、やがてデュボンの精神疾患によって生み出された「個人的な欲望」の渦に巻き込まれていく。
「カポーティ」、そして「マネーボール」という傑作を生みだしたベネット・ミラーの監督の最新作。冷たく重厚な形式。それにより物語そのものが、精神的な病理によって生み出されたことを暗示させる。漠然とした不安。どこで爆発するかわからない抑圧された空気。異常なまでに内面を描きだす恐るべき演技陣。破堤へと進む流れのなかに、人間が本来あるべき姿が見え隠れする。しかし事実に基づいて作られた本作は、あるべき姿を凍りつかせる結末を迎える。ベネット・ミラーは現代の病を地平とし、それを乗り越えるためにこそ、この映画を作ったのではないだろうか。

vol. 034 「フォックスキャッチャー」 2014年 アメリカ 135分 監督 ベネット・ミラー
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『複製された男』

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 ある日、映画のなかに自分そっくりの人物を発見する主人公。その人物は、自由奔放な生活を送る「もう一人の自分」であった。2人の遭遇はお互いの妻をも巻き込みながら、意表をつくラストへと吸い込まれてゆく。
注目の奇才、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とジェイク・ギレンホールが組んだ二作目。前作「プリズナーズ」ほどの完成度ではないものの、実験的な手法が随所に見られる前衛的な作品である。タイトル通り、複製された男との遭遇がメインとして描かれている。しかし、主人公が大学の講義で語る「支配の構造」がもう一つのテーマである。再三登場する蜘蛛。そして母親や妻のセリフが暗示しているのは、結婚制度と権力支配の関係である。フィルターを活かした極端な色調と、奇妙な音楽がSFのような雰囲気を作り出す。テーマを異空間に置き換えることで、事実を浮き彫りにする。驚くべき才能を秘めた監督による、最先端の試みがここにある。

vol. 033 「複製された男」 2014年 カナダ・スペイン 90分 監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

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