ある日、映画のなかに自分そっくりの人物を発見する主人公。その人物は、自由奔放な生活を送る「もう一人の自分」であった。2人の遭遇はお互いの妻をも巻き込みながら、意表をつくラストへと吸い込まれてゆく。
注目の奇才、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とジェイク・ギレンホールが組んだ二作目。前作「プリズナーズ」ほどの完成度ではないものの、実験的な手法が随所に見られる前衛的な作品である。タイトル通り、複製された男との遭遇がメインとして描かれている。しかし、主人公が大学の講義で語る「支配の構造」がもう一つのテーマである。再三登場する蜘蛛。そして母親や妻のセリフが暗示しているのは、結婚制度と権力支配の関係である。フィルターを活かした極端な色調と、奇妙な音楽がSFのような雰囲気を作り出す。テーマを異空間に置き換えることで、事実を浮き彫りにする。驚くべき才能を秘めた監督による、最先端の試みがここにある。
vol. 033 「複製された男」 2014年 カナダ・スペイン 90分 監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
illustration and text by : Yasunori Koga