『植え替えの時期』

古賀ヤスノリ イラスト  
 鉢植えの植物を育てる。陽の光と十分な水を与えることで、植物は葉を広げどんどん成長していきます。それとともに根っこも伸びていき、水や土から栄養をたくさん吸収するようになる。しかしやがて根が充満するときが来ます。もしそのままにしておくと、その植物は調子が悪くなり、最後には枯れてしまいます。成長することが自分の存在を殺してしまうというパラドクス構造が出来たからです。
 植物が成長すればするほど枯れてしまう。このパラドクス構造を作らないようにするためには、根が充満するまえに、より大きな鉢へ植え替える必要があります。根が成長するために必要な空間(余白)を作り出すということです。鉢に根以外がない状態(自分で充満した状態)では栄養を吸収することはおろか、自分によって押しつぶされてしいます。それを回避するために、外部世界を広げる必要があるということです。
 より大きな鉢へ植え替える。あるいは庭へ移し替ええる。そうすると根は自らを押しつぶすこともなく、肥沃な土壌から水と栄養をたくさん吸収し、元気に育っていく。成長することで自らを殺すということもありません。このように一つの方向への発展には必ず限界があり、発展を続けていくためには、外部世界を適切に変えていく必要があります。これは人間も同じで、揺りかごで永遠と過ごすわけにはいかないのです。
 実はこれは、物理的なことに限りません。一つのものの考え方、あるいは行動や計画は、ある時期まで有効でありながらも、ある時期からは前進が自らを圧殺する方向へと向かいます。いわゆる形骸化という言葉は、この発展の折り返し点をすぎたという意味です。考えや行為の有効性が感じられなくなった時は、植え替えのサインです。植え替えとは自己を包み込む空間を広げるということ。つまりそれは自己の世界観を押し広げるということです。
 自己の世界観を広げるということは、言い換えると、今まで取り入れてこなかった(或いは避けてきた)考え方や発想、価値観などを取り入れるということです。そうすることで、「これまで通り」の継続が自己を圧殺する、というパラドクス構造を回避できる。もちろん慣れ親しんだ状態や環境を変えるにはエネルギーや勇気が必要です。怠惰の病がそれを邪魔することもある。しかし環境をかえなければ自己が押しつぶされることは確実です。
 植え替えのサインとともに環境を変える。物理的には場所を移動してより自由で余白のある空間に身を置く。精神的には、これまで避けてきた新しい考え方や価値観を受け入れ、自分の世界観を押し広げる。それに必要なことは、重い腰をあげるエネルギーと勇気です。形骸化が進めば負の構造から出ることが難しくなる。慣れ親しんだ世界と心中するよりも、次の世界でのびのびと成長する方を選ぶ。この天秤をイメージして未来に賭ける勇気があれば、そこに見事な花が咲く可能性があるのです。

AUTOPOIESIS 0070/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

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