クリストファー・ノーランが描く世界には「善悪」という単純な二項対立がない。正義(バットマン)と悪(マフィア)という対立軸に「狂気」(ジョーカー)が加えれらる。「狂気」という全てのルールを無視する存在が、悪をも翻弄していく。単純な悪に対し法と正義は有効だった。しかしジョーカーには何の役にも立たない。「狂気」との戦いには、正義ではなく「暗黒の騎士」こそが必要なのだ。ルールを無視する異常者は現代社会にも蔓延している。ノーランが訴えるのは、狂気との戦いに必要な「光と影」の統合である。娯楽映画としても名品。
vol. 040 「ダークナイト」 2008年 アメリカ・イギリス 152分監督 クリストファー・ノーラン
illustration and text by : Yasunori Koga