『アリスの寄り道』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり

 ルイス・キャロルの有名な『不思議の国のアリス』でのこと。不思議の国へ迷い込んだアリスは、チェシャ猫と出会います。そこで自分がどっちへ行けば良いのかを尋ねます。するとチェシャ猫は「君がどこへ行きたいかによるね」と答えます。アリスはどこでもいい、とにかくどこかへ出られればと言う。それを聞いたチェシャ猫は、「そりゃ出られるさ、ずっと歩いていけばね」と答えます。これはつまり、出られるまで歩き続ければ良いということです。重要なのは方向よりも継続であると。
 目的地に到達するには継続が大切です。別の言い方をすると「諦めなければ必ず到達する」ということです。しかしもちろん方向も大切でしょう。誤った方向に進んでいては、元へ戻るのが大変です。哲学者のデカルトは、焦って間違った方向へ進むくらいなら、全く動かない方がまだ良いと言っています。ですが間違って初めて見えてくる「目指すべき場所」もあるはずです。
 何事も直線的な最短コースで考えると、寄り道や迂回はロスになる。しかし曲線も後戻りさえしなければ一本の道であり、立派な前進のコースです。チェシャ猫が、ずっと歩けば出られると言ったのは、後戻りをしなければという意味なのかもしれません。その後アリスは、狂った三日月兎と帽子屋へ会いに、さらなる寄り道を選んでいきます。豊かな物語は「曲線的な寄り道」を後戻りせずに“突き進む”ことで生まれるのかもしれません。

AUTOPOIESIS 131/ illustration and text by : Yasunori Koga
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