『タルコフスキーの花』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり
 以前、映画監督の中で最も尊敬するアンドレイ・タルコフスキーの墓を訪ねたことがありました。タルコフスキーの墓は、パリ郊外のロシア人墓地にあります。彼は検閲の絶えないロシアを離れ、イタリアやスウェーデンで映画を撮り、パリで客死したのでした。そこでパリを徘徊していたある日、花屋で花束を買い、電車で出かけることにしました。
 最寄り駅で下車して、そこからはバスで移動。墓地に着いたは良いのですが、広大な敷地に半端ではない数の墓が並んでいました。当時はスマホもまだなく、タルコフスキーの墓の写真だけが頼り。似たような墓がありすぎて苦労していた所、墓参りの人がいたので聞いてみました。すると「彼の墓がここにあるのか!」と目を見開いて驚いていました。その後2時間ほど探してやっと墓を発見しました。
 墓には枯れ始めた花が瓶に刺してありました。それは数日前に誰かがここへ来たことを示すものでした。そして一匹の猫が墓を守るように座っていました。枯れかけた花を抜き取り、新しい花と交換する。この花が枯れる頃には、またタルコフスキーを愛する人たちが来て、新しい花へ取り替えてくれる。彼の芸術に感動した人たちが、今は亡きタルコフスキーに「ありがとう」と言いたいのです。彼が眠る場所では、いまなお芸術と心の対話が息づいているのでした。

AUTOPOIESIS 138/ illustration and text by : Yasunori Koga
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