表現にはいろんなスタイルがある。複数のスタイルを描き分けるにはそれぞれがはっきりと区別できている必要があります。もちろん最初は区別が難しい。しかし徐々に慣れてくると切り替えができるようになります。二つのスタイルであれば切り替えは簡単です。しかしそれより多くなってくると混乱してしまう。複数のスタイルが制御できない状態を、精神分析の世界では統合失調の状態といいます。これはそれぞれの区別が心理的についていないことが原因です。逆にいえば、複数のスタイルを描き分けることが出来るようになるプロセスと、統合失調の状態が回復していくプロセスは重なる所があるということです。
もちろんプロセスは同じでも、実際の統合失調では抑圧などの心的な抵抗が絡むので、質的な違いがあります。しかし心的な抵抗が絵のスタイルの未統合に影響している場合もあります。よって複数の絵のスタイルを描き分けることが出来るようになることで、実際の心的な抵抗が軽減されることがあります。もちろんただ機械的に描くだけでは、心的な領域とのつながりがないので未統合を統合させる効果は期待できません。少なからず「心とのつながりのある表現」をすることが前提となります。
絵によって未統合なもを統合させるプロセスは、心理学的にはフロイトよりもユングの考え方が有効です。カオスから出発しセオリーに従って分節化して整理する。無意識を意識へというユングのプロセスに沿ってスタイルを整理する。もともと整理されたものから出発すると、整理自体が消滅するのでプロセスを経ることができません(これはフロイト的です)。つまり自ら整理するという経験的なプロセスが重要であるということです。これは知識による理解と根本的に違うところであり、ゆえに統合失調という状態の解決が難しいことを意味しています。自らの発見により世界が制御されていくプロセスは、創造そのものであり、ユングが創設した分析心理学の要です。彼は創造によって人は回復すると述べているのです。
AUTOPOIESIS 187/ illustration and text by : Yasunori Koga
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