『AIと自我』

イラスト こがやすのり

 テクノロジーの発達によってこれまで考えられなかったことが起こる。たとえば、写真のコンクールでAIが作った写真が賞に選ばれてしまったというニュースがありました。これは写真コンクールの前提が問われる事態だと言えます。つまりAIの登場によってこれまでの価値観が大きく揺らぎはじめた。AIは大量の情報を正確さをもって瞬時に扱うことができます。その領域で人間はかないません。電卓のおかげでソロバンを使わなくなったように、AIでやれることは人間はやる必要がなくなる。それとともに、AIではできない領域に価値があることがはっきりしてきます。
 AIが得意な「大量の情報を正確に扱う」ことは、人間がやる必要がなくなっていく。例えば本をコピーするときは、以前は写本だった。一つ一つ模倣して書いていた。しかしグーテンベルクが活版印刷を発明してからは、複製に数年を費やしていた人は、自由になり他のことができるようになった。これと同じ現象がAIの登場によっても起こります。今まで時間をかけて制作していたものを、より早く正確にAIが作り上げていく。とくにデジタル制作の現場は、熟練者と初心者の差異がなくなってしまう。これは避けられない現象です。機械が得意とする方向での制作領域はすべてそうなってしまう。
 しかし機械にはできないことがある。AIが作り出せないものがある。それはオリジナルに関わることです。AI自身とAIが制作するものには「オリジナル」がありません。人間で言えば自我がないことと同じです。これはSF小説のテーマにもある「アンドロイドとアイデンティティ」の問題ともいえます。AIが無限の複製力であらゆるものを生産しても「自我による制作」はできない。哲学者であり精神科医でもあるカール・ヤスパースは、自我の特徴を「単一性」と表現しています。他に同じもののない(繰り返せない)単一な存在。そう言ったものはAIでは作り出せない。自我をもつ人間だけが作りえるものです。テクノロジーの発達によって、不必要な作業(努力)を手放し、そのことで生まれる時間を「アイデンティティによる創造」にあてる時代に来ているのです。

AUTOPOIESIS 190/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』

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