安定ということばは基本的によい状態を指すことばとして使われます。つまり不安定の逆の概念としてあるものです。よって安定しているということは「不安定ではない」ことを意味します。この状態に価値があることは、誰もが認めるところです。しかし安定することが不安定であるような「矛盾した安定」というものもある。これは一見して安定しているので発見しにくいという問題をはらんでいます。
安定することが不安定な状態とは、たとえば心も身体も病気になり、その状態が長い間続く時は、病的な安定状態を意味します。これを「負の安定」と呼ぶならば、何年も続く引きこもりや、不満を抱えたままの生活、それを結果的に作り出す組織(例えば家族や国)も、みな「負の安定」という矛盾した安定に陥っていると言えます。
「負の安定」の一番の問題点は、内部の人々にとってはその状態が安定であると錯覚しやすいことです。そしてその構造を変えることが不安定(恐れ)を意味する。よって現状維持への執着が起こります。精神病理学の木村敏さんは、この現状維持への活動的執着を鬱病の病前気質(シグナル)だと表現されています。変化を恐れ、その状態に対する新しい傾向や影響は一切排除しようとする。このような「負の安定」は、考えることを放棄して、ただ活動だけに執着すると、あらゆるところで起こってきます。この「負の安定」という現象を対象化し、その構造を知ることで、「矛盾した安定」に対する予防や解決策が自然に見えくるようになるのです。
AUTOPOIESIS 206/ illustration and text by : Yasunori Koga
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