『欲求の階段』

イラスト こがやすのり

 人間には欲求がある。食欲や性欲といった低次の欲求から、それらを抑えて他者を助けたり、自己実現のために芸術やその他の活動をやりたいという高次の欲求もあります。このような欲求を段階に分けたマズローの五段階欲求という分かりやすい分類もあります。とにかく低次の欲求は食欲や性欲といった「生存欲求」で、原始的で損得が優先される世界観です。そこから高次へ行くほど低次の欲求を抑えこみ、より他律的で精神的な充実を求めるようになる。
 一般的には低次の欲求が満たされないと高次の欲求へ向かえないと言われています。しかし低次の欲求が満たされても、さらに満たすよう強いられると高次へ上がれなくなります。資本主義が形骸化した現代は、経済優位社会であり、産業と広告(マスメディア)が人々を永遠の消費(パラドクス)に閉じ込めています。次々に低次の欲求を刺激され、それを無批判に受け入れた人たちは、高次の欲求へ向かうことが困難になります。
 低次欲求への「過剰な刺激」と呼べるマスメディアの宣伝広告を、主体的に退けるには「安定した自我」が必要です。その「安定した自我」は、まずは「親からの愛情」により基盤が作られます。しかし、もしその親がすでに宣伝広告による過剰な刺激に侵されていたらどうでしょう。子供の個性(適正)よりも損得を優先し、結果的に低次の損得世界(成果や世間体)を追求させるでしょう。そうなると安定した自我は育ちにくくなります。このような理屈(構造)を把握することで、負の流れを断ち切ることが出来るようになる。フロイトは低次の欲求に固着させる情報を除去して、自我がスムーズに高次欲求へと成熟していくプロセスを、精神的な回復もしくは「文化」と読んでいるのです。

AUTOPOIESIS 223/ illustration and text by : Yasunori Koga
こがやすのり サイト→『Green Identity』

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