『ビギナーズラック』

イラスト こがやすのり

 初心者がプロよりも良い結果を出すことが往々にしてある、という意味のビギナーズラックという言葉があります。この言葉は運が味方をしているというニュアンスがありますが、実際はどうなのでしょうか。熟練のプロに初心者が勝ってしまうということは、知識や技術といった経験則を越えた「直感的な振る舞い」がダイレクトに出た結果と言えそうです。
 直感は技術や知識に勝る。このことはあらゆるジャンルに言えることです。たとえば数学者は証明に何年もかかる定理を直感で発見するといいます。もし本当にそうであるならば、物事は知識や技術以上に、直感を鍛えることこそがすべての土台(基礎)と言えるのかもしれません。しかし知識や技術に比べて直感は明示化できないので、鍛える方法が一般化されていないのが現状です。
 熟練の知識や技術を越えるような直感を身に着ける。そのことによってビギナーズラックが生まれる確率を高いレベルで維持する。しかしそれは運ではなく直感を利用した実力だと言えます。たとえば子供が描く絵は、大人の知識を技術を越えた美しさがあります。しかも偶然ではなく連続して描ける。これはビギナーズラックが基礎としてある証拠だと言えます。大人はその能力をむしろ知識と技術を獲得することで失っている。子供は最初は絶対音感をもっているという説も同じでしょう。ドレミをやっているうちに消えてしまう。こう考えると、大人が失ったものは「子供ごころ」だけでなく、ビギナーズラックを生む直感能力も失っている。知識や技術を一旦カッコにいれて直感を鍛えることで、その能力が回復する可能性はまだ十分にあるのです。

AUTOPOIESIS 228/ illustration and text by : Yasunori Koga
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