『二つの変化』

イラスト 古賀ヤスノリ Yasunori Koga

 変化を許容すること。この大切さは今さら言うまでもありません。文明が変化を拒んでいたら、私たちはいつまでも石器や土器を使っていたかもしれません。また子供のまま精神が変化しなければ、ただの幼稚な大人になってしまいます。変化は進化や発展の基盤であり、動物や植物にみられるように、生命維持そのものと言ってよいものです。
 しかし変化が生命や発展を阻害することもあります。たとえば前進すべき時に逃げるのは「悪い変化」です。自己や現実からの逃避もまっとうな方向からの「悪い変化」です。このように変化には「良い変化」と「悪い変化」があります。「良い変化」は現実的に進化や発展、生命や精神の維持に欠かせないものです。それに対して「悪い変化」は、進化や発展を阻害し、精神や生命を脅かすものです。
 人はときに疲れ、傷つき、臆病になることもあります。そんな時には「現実逃避」をしたくなる。現実へ戻れる程度なら問題はありません。しかし戻れなくなる「悪い変化」に依存すると問題が起こります。また世の中には、そういった傷ついた人の「逃避願望」を利用して、これを信じれば絶対に変われる、と「悪い変化」に依存させようとする人たちもいます。現実的な問題への対処が困難な人ほど、そういった口車に乗せられやすい。しかし現実は、何かをただ信じたり従ったりするだけで(お手軽な方法で)、自分自身が進化発展を獲得できることはありません。
 心が弱り絶対的なものを信じやすくなった時に、「悪い変化」を前進だと錯覚させる人たちが出てくる。これさえ守っていれば絶対に助かるといった「絶対」や「救済」の雰囲気、あるいは「成功体験の連呼」などはまさに逃避傾向の人を刺激する要素です。しかしそれらには論理的な正しさ(ウラ)もなく、直感的、美的にも怪しいものです。そういったものに自分を救済する絶対的な力があると思うとき、それは自己を捨てて「お手軽な変化」(妄想)にすがりついている時です。むしろ本当の「良い変化」とは自己や現実からの逃避(悪い変化)ではなく、現実や自己の受け入れからしか発生しません。この意味で、「悪性の変化」を退け、自己を健全に発展させるためには、「自分を信じる強さ」を獲得する以外に方法はないのです。

AUTOPOIESIS 257/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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