『プリズナーズ』

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 娘を誘拐した容疑者は、証拠不十分で釈放される。事件を追う刑事の捜査手法に不満を持った父親は、一線を超えた方法で事件の解決を図ろうとする。
敬虔なる父親が、娘を救うために自身の信仰を捨てる行動にでる。信仰に背くことは自分の死をも意味する。自己矛盾に引き裂かれながら娘を守ろうとする父親の姿に、本質的な父性の役割が浮かび上がる。情念の父親に対し、理性的な捜査で事件を追う刑事。これら相対する二つの手法がゆっくりと交差していく。ドゥニ・ヴィルヌーヴの真に迫る演出。ロジャー・ディーキンスの冷たくも美しい映像。そして迫真の演技陣。加害者の発生原理と被害者の苦悩が、自己言及的な迷路として描かれた傑作。

vol. 043 「プリズナーズ」 2013年 アメリカ93分監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

『ダンケルク』

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そぎ落とされた台詞。風景と化した兵士たち。戦場の限界状況が、新しい角度からダイレクトに伝わってくる。歴史的な事実を「人命」という視点で描いた本作は、ノーランがリスペクトする「シンレッドライン」のような哲学的な表現をあえて抑え、テオ・アンゲロプロスのよな「史実ありのまま」を現象学的に(または詩的に)映し出そうとする。ヒットメーカーならではのドラマも盛り込まれていて、評論家から一般までが一定の評価を下すのではないか。久々に映画界に新しい形式をもたらした“映像が語る”一作。

vol. 042 「ダンケルク」 2017年 イギリス、オランダ、フランス、アメリカ 93分監督 クリストファー・ノーラン
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古賀ヤスノリHP→『isonomia』

『氷の国のノイ』

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 氷の国アイスランドの高校生、ノイ。夢もなく、勉強や努力も放棄したまま過ごす日々。積極性は皆無であるが、反発とニヒルな態度は一人前。そんな彼は、自分だけの地下室にこもり、南国に夢を見る。そして理想と現実の距離を、稚拙な方法で埋めようともがく。美しく、ユーモアに満ち、そして「成長」という人間に普遍的なテーマが丁寧に描かれる。自閉世界が動き出す瞬間を描いた、知られざるアイスランドの傑作。

vol. 041 「氷の国のノイ」 2003年 アイスランド・ドイツ・イギリス・デンマーク 93分監督 ダーグル・カウリ
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『ダークナイト』

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 クリストファー・ノーランが描く世界には「善悪」という単純な二項対立がない。正義(バットマン)と悪(マフィア)という対立軸に「狂気」(ジョーカー)が加えれらる。「狂気」という全てのルールを無視する存在が、悪をも翻弄していく。単純な悪に対し法と正義は有効だった。しかしジョーカーには何の役にも立たない。「狂気」との戦いには、正義ではなく「暗黒の騎士」こそが必要なのだ。ルールを無視する異常者は現代社会にも蔓延している。ノーランが訴えるのは、狂気との戦いに必要な「光と影」の統合である。娯楽映画としても名品。

vol. 040 「ダークナイト」 2008年 アメリカ・イギリス 152分監督 クリストファー・ノーラン
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『ゴーストライター』

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 元英国首相のゴーストライターであったマカラの自殺によって、あらたなゴーストライターに任命された主人公。アメリカ滞在中の首相の下で自伝に取り掛かるが、マカラが書いた初稿を探究するうちに、自分とマカラが不気味な重なりを見せ始めていく。
一国の首相の個人史から浮かび上がるストーリー。それは本人の意思を超えた、ある構造によって規定された物語なのか。首相の自伝という表向きの事実が暗示する「真の事実」とは。ゴーストライターという実態なき存在が表そうとするのは、偽装によって隠蔽された真実である。彼はそれを認識し得た瞬間、腐敗した政治の世界から解放される。ここにあるのは真のジャーナリズム。何もかもがパーフェクトと言える、数少ない映画である。

vol. 038 「ゴーストライター」 2010年 イギリス 124分監督 ロマン・ポランスキー
illustration and text by : Yasunori Koga

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