娘を誘拐した容疑者は、証拠不十分で釈放される。事件を追う刑事の捜査手法に不満を持った父親は、一線を超えた方法で事件の解決を図ろうとする。
敬虔なる父親が、娘を救うために自身の信仰を捨てる行動にでる。信仰に背くことは自分の死をも意味する。自己矛盾に引き裂かれながら娘を守ろうとする父親の姿に、本質的な父性の役割が浮かび上がる。情念の父親に対し、理性的な捜査で事件を追う刑事。これら相対する二つの手法がゆっくりと交差していく。ドゥニ・ヴィルヌーヴの真に迫る演出。ロジャー・ディーキンスの冷たくも美しい映像。そして迫真の演技陣。加害者の発生原理と被害者の苦悩が、自己言及的な迷路として描かれた傑作。
vol. 043 「プリズナーズ」 2013年 アメリカ93分監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
illustration and text by : Yasunori Koga