「認知衛生学」とは私が作った造語で、「情報の真偽を正しく判断する」ための新しい視点です。たとえば、「そのままでいいよ」(あなたは悪くない)と言われた時に、「ありがとう」と返事をして、良かったと思うとします。これが通常のコミュニケーションです。しかしもし、相手がこちらのレベルを落とそうとして、本当はもっと頑張った方がいいのに「そのままでいいよ」と言ったとすればどうでしょうか。この場合は「そのままでいいよ」は表向きの情報であり、裏には低レベルへ押し込んで前進させないでおこう、という目的が隠されています。
表向きと裏とで意味が違う。つまり「意味の二重構造」があり、しかも表と裏は逆向きになっています。この状態をダブルバインド(二重拘束)と言います。このダブルバインド状態に長い間さらされると子供は統合失調症になると言われています。こういったダブルバインド情報は、本音と建前が常態化している企業の広告から、政治家や親の発言、詐欺師の誘いやSNSにいたるまで、いまや蔓延しています。よって表面だけの解釈をするのは危険だといえます。
「そのままでいいよ」(あなたは悪くない)と言われたとき、「なぜ相手はそう言っているのか」という視点をまず最初にもつ必要があります。その「分析の視点」には、相手がどういう性質の人なのか、相手と自分はどういう関係にあるのか、あるいはまともに受け取ったら自分は「どういう影響を受ける」のか、といった沢山の情報との照合が必要になります。現代の分裂した情報社会では、この文脈照合なしに情報を受け取ると、ほぼ裏の情報に支配されることになります。この裏にある「隠された情報」を直感的に判断できる「情報の免疫システム」をつくる必要がある。「認知衛生学」はこの免疫システムを多面的に研究し実践していく視点なのです。
AUTOPOIESIS 259/ illustration and text by : Yasunori Koga
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