「労力に対する報酬という観念は、立派な魂を損なうものよ」
(アンドレ・ジイド)
この物語の裏にあるのは、自己犠牲という感覚がつくる“結末”であり、それは人生に対する遠慮を超えた「自己放棄」とでも呼べるものです。つまりそこにあるのは、「個人」ではなく完全なる敬虔さ。主人公ジェロームとアリサの可能性は、アリサが持つ純粋な宗教感覚によって阻まれていく。自己犠牲に囚われた個人の姿は、現代においても終わった問題ではないでしょう。ジイドが伝えようとした自己犠牲の結末は、個人の幸福を獲得するためにこそ、必須の認識なのです。物語に凝縮されたテーマが人々を解放する 、憂愁に包まれた名作。
book / 010『狭き門』アンドレ・ジイド: Originally published in 1909
illustration and text by : Yasunori Koga