『ダイダロスの助言』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり

 前回のアリアドネの糸は、英雄テセウスを助けるためにアリアドネが考え出した、と言いたいところですがそうではありません。実はミノタウロスを閉じ込めるための迷宮を設計した、天才発明家ダイダロスから聞き出した知恵でした。迷宮から見事に脱出したテセウスはアリアドネと駆け落ちする。それを知って憤慨したミノス王は、アリアドネに知恵を与えたものを探す。そしてすぐにダイダロスであることがばれてしまう。
 ダイダロスは罰として息子イカロスと共に自ら設計した迷宮に閉じ込められてしまう。ダイダロスは迷宮の設計図を燃やしてしまっていて記憶も定かでない。絶望するイカロス。しかしダイダロスは天才の知恵を活かし、空飛ぶ翼を設計し2人で脱出を図る。だだし脱出の条件として、あまり高く飛んでもいけないし、あまり低く飛んでもいけないとダイダロスは助言する。しかしイカロスは脱出したことを喜び高く舞い上がり過ぎて、太陽の熱で接着剤が溶けて墜落してしまう。そしてダイダロスだけが中間を飛びつづけて脱出に成功する。
 中間を飛ぶことは難しい。どちらか一方だけに従うほうがラクである。なぜなら自分で舵取りしなくて済むから。片方に従ってさえいればそれでいい。しかしイカロスが一方向に心を奪われたように、両極のバランスを失うと上手く飛べなくなる。たとえば外的なものに従い過ぎて自分を見失う。あるいは逆に内的なものに従いすぎて社会と折り合いがつかなくなる。ダイダロスの助言は両極があって、そのバランスを取ることが「安定」であることを意味しています。
 この世に存在するものはすべて、両極のバランスにより成り立っています。光と影、強弱や大小、暑い寒いなど、すべては逆の概念によって支えられている。もし片方だけに従えば、その世界はやがて消滅してしまう。ダイダロスが迷宮から脱出した方法は、まさに「世界の消滅」の“逆方向への力”を示しています。消滅へと向かう世界を救う方法は、両極を見きわめ二つのバランスを取り続けることなのです。

AUTOPOIESIS 119/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ のHP→『Green Identity』

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