『微妙な捉えかた』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり

 推理小説の元祖エドガー・アラン・ポーが生み出したキャラクターにオーギュスト・デュポンがいます。デュポンはシャーロックホームズのモデルであり、抜群の観察力と知性で難問を解決します。そのデュポンの言葉に「微妙な捉え方としては横からがよいのだよ」というものがあります。これは「微弱に光る星」を直視すると網膜の構造上みえなくなるので、視線をずらし周辺視野で見ると良い、という説明での言葉です。つまり物事には直視すると消えてしまうけれども、視線をずらし「ぼんやり見る」と現れるものがあるということです。
 現代人は何ごとも数量化して考えます。それによって結果も得られる。しかしそれは数量化できる「直視できるもの」に対する結果です。それに対して自分の「心」に関わることは、形がはっきりとせず数量化もできません。そういった領域では直視すると返って見えなくなる。よって問題がたくさん出てきます。そのような数量化できない世界は、直視せずに視点をずらし、ぼんやりと全体をおぼろげに感じる。そうすると曖昧なものの全体像が見えてきます。
 数量化できない世界は直視すると消えてしまう。たとえば自分は何をやりたいのか、どの方向を選べばよいのかといった問題など。それらは心に関わることで直視しすぎると消えてしまう。つねに変化し輪郭も曖昧だからです。よって視点をずらし全体をおぼろげに感じる。そこには数ではなく質的な何かが感じられる。正面から直視して消えてしまった世界をよみがえらせる。それにはデュポン流の「視点をずらし微妙に捉える」ものの見方が有効なのです。

AUTOPOIESIS 134/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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