『ポリコレと自由』

古賀ヤスノリ イラスト こがやすのり
 ポリティカル・コレクトネス、略してポリコレ。これは特定のグループに不快感を与えないような表現を選ぶこと。人種や性別などによる偏見的を含まない中立的な表現を用いることです。いまこのポリコレはクリエイティブの世界で逆説的な問題を発生させています。つまり、あまりに中立的で保守的に創作するので、出来上がったものに面白みがないという現象が世界的に起こっています。
 そもそも表現とは一つの意思の表れであり、そこには精神的な決断と表明があります。そして意見には必ず真逆の意見がある。相補的な関係が必ずある。それが現実の世界です。絵で言えば影を描かないと光もないことと同じです。すべてを平均化したものは動きがなく作者の判断も見えず、表現する意味すら疑問になってきます。もちろん差別や偏見はあってはならない。しかし創造の世界においてまで、現実の中立性を強いるのは問題です。
 平均とはそもそもある一定の数によって見えてくる確率的な概念です。たくさんの数が集まったときに初めて現れるバランスです。よって一つ一つを取ってみれば平均より上だったり下だったりする。これが現実です。しかしひとたび平均を基準とすれば、一つ一つがその枠から出られなくなり自由もなくなる。現在のポリコレの問題はこの「確率論のパラドクス」に陥っています。現実の世界には「倫理的中立性」が必要です。しかし創造の世界にまでそれを強いるのは行き過ぎです。ここには数々のファンタジー作品がテーマにしてきた「創造の世界(ファンタジア)に現実が介入する」という問題が発生していのだと思います。

AUTOPOIESIS 156/ illustration and text by : Yasunori Koga
古賀ヤスノリ サイト→『Green Identity』

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