『不正確さと個性』

イラスト こがやすのり

 今やあらゆる領域でAIの問題が議論されるようになりました。この問題は、これまで人間にしかやれなかったことを「AIが人間以上の正確さでやれる」という事実認識に至ったことが原因です。この事実は、たとえば人間が職を失うといった物理的なことから、コピー生成とその限界が示す「個性とは何か」あるいは「人間とは何か」という根本的な問題をも突き付けて来ています。
 たとえばデザインで使うフォント(文字デザイン)は、昔はレタリングと言って人間が手で描いていました。私はマックが普及する前にレタリングを手で描いていた最後の世代なので、レタリング専門の人が職を失うところを見てきしました。もちろんこれは一つのことだけに専門特化することの危険性も示されていますが、テクノロジーの発達によって“技術”が機械へと移行する流れは避けられないことを表しています。
 技術は機械が正確に生成する。扱う情報量も人間はかなわない。これはデジタルで制作する人は特に実感せざるを得ません。そうすると残るは正確さや情報量とは別種の価値に「人間にしかできないこと」があると分かります。機械だと同じ条件ならまったく同じものができる。しかし個性をもった存在なら、それぞれに違ったものができます。この差異は正確さや情報量とは別次元の差です。言い換えれば、不正確さ、ゆがみ、崩れなどの形で現れるものです。この「不完全さの意味と表現」を探求することが、AIとの共存時代に必要不可欠なことなのです。

AUTOPOIESIS 196/ illustration and text by : Yasunori Koga
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