『ダンケルク』

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そぎ落とされた台詞。風景と化した兵士たち。戦場の限界状況が、新しい角度からダイレクトに伝わってくる。歴史的な事実を「人命」という視点で描いた本作は、ノーランがリスペクトする「シンレッドライン」のような哲学的な表現をあえて抑え、テオ・アンゲロプロスのよな「史実ありのまま」を現象学的に(または詩的に)映し出そうとする。ヒットメーカーならではのドラマも盛り込まれていて、評論家から一般までが一定の評価を下すのではないか。久々に映画界に新しい形式をもたらした“映像が語る”一作。

vol. 042 「ダンケルク」 2017年 イギリス、オランダ、フランス、アメリカ 93分監督 クリストファー・ノーラン
illustration and text by : Yasunori Koga

古賀ヤスノリHP→『isonomia』

『氷の国のノイ』

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 氷の国アイスランドの高校生、ノイ。夢もなく、勉強や努力も放棄したまま過ごす日々。積極性は皆無であるが、反発とニヒルな態度は一人前。そんな彼は、自分だけの地下室にこもり、南国に夢を見る。そして理想と現実の距離を、稚拙な方法で埋めようともがく。美しく、ユーモアに満ち、そして「成長」という人間に普遍的なテーマが丁寧に描かれる。自閉世界が動き出す瞬間を描いた、知られざるアイスランドの傑作。

vol. 041 「氷の国のノイ」 2003年 アイスランド・ドイツ・イギリス・デンマーク 93分監督 ダーグル・カウリ
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

『ダークナイト』

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 クリストファー・ノーランが描く世界には「善悪」という単純な二項対立がない。正義(バットマン)と悪(マフィア)という対立軸に「狂気」(ジョーカー)が加えれらる。「狂気」という全てのルールを無視する存在が、悪をも翻弄していく。単純な悪に対し法と正義は有効だった。しかしジョーカーには何の役にも立たない。「狂気」との戦いには、正義ではなく「暗黒の騎士」こそが必要なのだ。ルールを無視する異常者は現代社会にも蔓延している。ノーランが訴えるのは、狂気との戦いに必要な「光と影」の統合である。娯楽映画としても名品。

vol. 040 「ダークナイト」 2008年 アメリカ・イギリス 152分監督 クリストファー・ノーラン
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

『ゴーストライター』

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 元英国首相のゴーストライターであったマカラの自殺によって、あらたなゴーストライターに任命された主人公。アメリカ滞在中の首相の下で自伝に取り掛かるが、マカラが書いた初稿を探究するうちに、自分とマカラが不気味な重なりを見せ始めていく。
一国の首相の個人史から浮かび上がるストーリー。それは本人の意思を超えた、ある構造によって規定された物語なのか。首相の自伝という表向きの事実が暗示する「真の事実」とは。ゴーストライターという実態なき存在が表そうとするのは、偽装によって隠蔽された真実である。彼はそれを認識し得た瞬間、腐敗した政治の世界から解放される。ここにあるのは真のジャーナリズム。何もかもがパーフェクトと言える、数少ない映画である。

vol. 038 「ゴーストライター」 2010年 イギリス 124分監督 ロマン・ポランスキー
illustration and text by : Yasunori Koga

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『キングダム』

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 デンマークの巨大病院を舞台に起こる奇怪な現象。忌まわしい過去と病院の関係が明らかとなるにつれ、隠蔽された事実と同化していく登場人物たち。この物語は、主要人物を演じる役者の死によって撮影中止となる。
鬼才、ラース・フォン・トリアー監督が手掛けたテレビシリーズ。94年当時、デンマーク番ツインピークスと言われ、本国デンマークで驚異的な視聴率を誇ったカルトなドラマ。不安を掻き立てるカメラワークと、全編セピアの脱色彩感覚。精神分析としての「抑圧と回帰」が、哲学としての「隠蔽と真実」に対応する凄さ。映画でしか伝えようのないある感覚を、この時期のラース・フォン・トリアーは確実に持っていた。役者の死によって未完に終わった、他に類をみない伝説的な傑作。

vol. 037 「キングダム」 1994-97年 デンマーク 570分監督 ラース・フォン・トリアー
illustration and text by : Yasunori Koga

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