『フォックスキャッチャー』

古賀ヤスノリ イラスト

 レスリングの金メダリストである主人公は、大富豪ジョン・デュボンからの融資を受けレスリングチーム、フォックスキャッチャーの結成を任される。世界一を目指すために結成されたチームは、やがてデュボンの精神疾患によって生み出された「個人的な欲望」の渦に巻き込まれていく。
「カポーティ」、そして「マネーボール」という傑作を生みだしたベネット・ミラーの監督の最新作。冷たく重厚な形式。それにより物語そのものが、精神的な病理によって生み出されたことを暗示させる。漠然とした不安。どこで爆発するかわからない抑圧された空気。異常なまでに内面を描きだす恐るべき演技陣。破堤へと進む流れのなかに、人間が本来あるべき姿が見え隠れする。しかし事実に基づいて作られた本作は、あるべき姿を凍りつかせる結末を迎える。ベネット・ミラーは現代の病を地平とし、それを乗り越えるためにこそ、この映画を作ったのではないだろうか。

vol. 034 「フォックスキャッチャー」 2014年 アメリカ 135分 監督 ベネット・ミラー
illustration and text by : Yasunori Koga

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『複製された男』

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 ある日、映画のなかに自分そっくりの人物を発見する主人公。その人物は、自由奔放な生活を送る「もう一人の自分」であった。2人の遭遇はお互いの妻をも巻き込みながら、意表をつくラストへと吸い込まれてゆく。
注目の奇才、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とジェイク・ギレンホールが組んだ二作目。前作「プリズナーズ」ほどの完成度ではないものの、実験的な手法が随所に見られる前衛的な作品である。タイトル通り、複製された男との遭遇がメインとして描かれている。しかし、主人公が大学の講義で語る「支配の構造」がもう一つのテーマである。再三登場する蜘蛛。そして母親や妻のセリフが暗示しているのは、結婚制度と権力支配の関係である。フィルターを活かした極端な色調と、奇妙な音楽がSFのような雰囲気を作り出す。テーマを異空間に置き換えることで、事実を浮き彫りにする。驚くべき才能を秘めた監督による、最先端の試みがここにある。

vol. 033 「複製された男」 2014年 カナダ・スペイン 90分 監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
illustration and text by : Yasunori Koga

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『ロストチルドレン』

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 一つ目族なるカルト教団によって、街から連れ去られる子供たち。 弟を連れ去られたサーカスの怪力男は、子供窃盗団の少女ミュエットと共に弟の捜索へと向かう。
世界的にヒットした「アメリ」の監督、ジャン=ピエール・ジュネが作り出した奇怪なダーク・ファンタジー。ストーリーはいたって単純。しかし博士が自ら作ったクローンや、こどもの夢を盗む老化の早い男など、深いメッセージ性に富む内容となっている。子供を連れ去る「一つ目族」とは、富や権力によって片目しか開けない「大人」のメタファーでもあるのだ。ジャン=ピエール・ジュネのまさに両目で作りあげた、イマジネーション豊かな快作。

vol. 032 「ロストチルドレン」 1995年 フランス112分 監督ジャン=ピエール・ジュネ
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『宇宙戦争』

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 地底から現れた巨大マシン。それは遠い昔に宇宙人によって埋められたものだった。科学の差によって圧倒される人間たち。なすすべなく逃げまどう中、少しずつ宇宙人の目的が 明らかとなっていく。
この映画はH.G.ウェルズの同名小説を映画化したもの。賛否両論あって、絶賛する人もあれば駄作という人もいる。個人的にはとても良い映画だとおもう。特に映像センスは抜群。名カメラマン、ヤヌス・カミンスキーのフレーミングと明暗のバランスは見事としか言いようがない。過去の大戦を彷彿とさせる情景。人間が狩られる側に立つことで、我々が動物へ行っている事を再認識させられる。あっさりしたラストも含め、自然淘汰を暗示させる生物学的な映画である。

vol. 031 「宇宙戦争」 2005年 アメリカ116分 監督スティーヴン・スピルバーグ
illustration and text by : Yasunori Koga

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『カッコウの巣の上で』

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 刑務所の強制労働から逃れるために、精神異常を装う主人公。彼が精神病院で見たものは、薬物治療と婦長に怯える患者たちだった。婦長の圧政に反撥した主人公は、病院からの逃走を図ろうとする。
この映画の面白い所は、病院内の人間関係をフロイト的に見ることが出来るところである。 「エス」である主人公は、「超自我」である婦長の監視を振り切り、自由を獲得しようとする。 それを目の当たりにした患者たちは「自我」を広げようとする。 これはまさに精神分析のモデルそのもの。ミロシュ・フォアマンの天才的な演出と、 ジャック・ニコルソンの凄まじい演技が融合したまさに名作。病んだ現代社会の処方箋となりうる映画である。

vol. 030 「カッコウの巣の上で」 1975年 アメリイア133分 監督ミロス・フォアマン
illustration and text by : Yasunori Koga

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