『創造する無意識』

古賀ヤスノリ
「芸術は絶えず時代精神の教育に携わる」
(C.G.ユング)

 心理学者ユングが文芸について語った貴重な記録。とくに1922年に行ったスイスのチューリッヒでの講演は、フロイトの芸術論と一線を画す“ユング節”が炸裂している。ユングによれば芸術作品は、個人を超えた「集合的無意識」から生れるもの。よってフロイトの「還元主義的分析」を適用するれば、作品はたちまち個人の領域へ引き戻されてしまう。本来の芸術とは、時代に不足したものを直感した表現であり、個人の意図を超えたものである。よって、芸術は「美」であるだけで事足りるとユングは言う。時代がユングに追いついたことを感じさせる名講演集。

book /011『創造する無意識』C.G.ユング: Originally published in 1930-1985
illustration and text by : Yasunori Koga

古賀ヤスノリHP→『Greenn Identity』

『狭き門』

古賀ヤスノリ イラスト
「労力に対する報酬という観念は、立派な魂を損なうものよ」
(アンドレ・ジイド)

 この物語の裏にあるのは、自己犠牲という感覚がつくる“結末”であり、それは人生に対する遠慮を超えた「自己放棄」とでも呼べるものです。つまりそこにあるのは、「個人」ではなく完全なる敬虔さ。主人公ジェロームとアリサの可能性は、アリサが持つ純粋な宗教感覚によって阻まれていく。自己犠牲に囚われた個人の姿は、現代においても終わった問題ではないでしょう。ジイドが伝えようとした自己犠牲の結末は、個人の幸福を獲得するためにこそ、必須の認識なのです。物語に凝縮されたテーマが人々を解放する 、憂愁に包まれた名作。

book / 010『狭き門』アンドレ・ジイド: Originally published in 1909
illustration and text by : Yasunori Koga

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『緋色の研究』

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「ぼくにとって、そんなものがいったいなんの役にたつのかな!」
(アーサー・コナン・ドイル)

 誰もが知るシャーロック・ホームズが世に出た第一作目。ストーリー自体は推理ものとして単純明解です。しかし、コナン・ドイルが作り出したシャーロック・ホームズの「情報処理の姿勢」は、情報過多の現代人に一つの指標を与えるもです。彼はあらゆる知識に通じた天才でありながら、その反面、一般人が知る当然の知識(常識)をまったく持っていない。地動説すら知らないという始末。彼は言います。「無用なものを覚えて、役に立つ知識を追い出さないようにするのは、じつにたいせつなことですよ」と。ネット社会での新しい「常識」を予感した、学ぶところの多い娯楽小説です。

book / 009『緋色の研究』アーサー・コナン・ドイル: Originally published in 1887
illustration and text by : Yasunori Koga

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『進化とはなにか』

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「われわれは進化を現場で押さえることができない」
(今西錦司)

 “生物には自然淘汰では説明できない形態がある”という着想から、個体レベルの進化ではなく、種レベルでの進化の発想に行き着く。ダーウィンが唱えた「ランダムな突然変異」による自然選択説に対し、「方向性をもった突然変異」を対置。これは生物に主体をもたせるいわゆる目的論として、自然科学の世界ではタブーとされてきた視点である。さらに進化する種自体が、それを取り巻く一連の「エコシステム」に組み込まれたものであるというホーリズムを展開する。進化論の源流であるラマルクを蘇らせたような、今だ新しい″開放系”種の社会構造論である。

book / 008『進化とはなにか』今西錦司: Originally published in 1976
illustration and text by : Yasunori Koga

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『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』

「(彼らは)“労働と産業活動を神に対する義務”と考えている」
(マックス・ヴェーバー)

 比較宗教社会学によって論じられた「資本主義解体新書」とでも呼ぶべき一冊。この本によれば、プロテスタンティズム(特にカルヴァン主義)の世俗的禁欲と天職倫理(救いを得るための労働)が、資本主義の原動力である「利潤追求の合法化」の精神をつくりだしたという。禁欲的な“節約”が、結果的に資本形成と生産的な利用を促す。さらに天職を「救済を得る最良の手段」とすることで、資本主義的“営利”生活が神に添うものとなる。資本主義の宗教的な構造を明らかにした、まさに資本主義を超えるための必須の論考です。

book / 007『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』マックス・ヴェーバー: Originally published in 1920
illustration and text by : Yasunori Koga

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