『裸のランチ』

古賀ヤスノリ イラスト

 ウイリアム・バロウズの同名小説の映画化である。小説のほうは、文章を無作為に切り取りとって繋ぎ合わせるカットアップという手法がとられている。 つまり意味不明な体裁をしているのだ。それを映像化しようという発想が凄い。監督のクローネンバーグは昔から、バロウズのファンだったようである。
映画のほうはカットアップではない(編集とはカットアップなのだが)。映像は琥珀色。オーネット・コールマンのサックスが気だるい空気を乱反射させ、その中を役者たちがまどろむ。
この世界観には賛否両論あるだろう。しかし映像のインパックトは大きく、今でも似たような質感の映画を見かける。バロウズ本人のエピソードが数多く盛り込まれてるので、「裸のバロウズ」というサブタイトルで親しみたい一品である。

vol. 009 「裸のランチ」 1992年 イギリス・カナダ117分 監督:デヴィッド・クローネンバーグ
illustration and text by : Yasunori Koga

★古賀ヤスノリのHP→『Green Identity』

『狼たちの午後』

古賀ヤスノリ イラスト

 銀行強盗に走る主人公。労働者階級の苦悩が引き金となって起きた事件は、少しずつ人々の共感を生んでいく。それは人質になった銀行員とて例外ではなかった。
格差が引き金となった事件があとを絶たない現代。この映画のメッセージは今なお威力を失っていない。実話に元づいた映画だけに、無駄を排した演出と、セミドキュメンタリータッチのカメラワークが効果的。のちに、この映画を着想とした映画が多数作られているという事実が、傑作であることを物語っている。エルトン・ジョンのオープニングソングが心に響いてならない。

vol. 008 「狼たちの午後」 1975年 アメリカ125分 監督:シドニー・ルメット
illustration and text by : Yasunori Koga

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『タクシードライバー』

 この映画はロバート・デ・ニーロの表情に全てが込められている。監督のマーティン・スッコセッシは、監督にならなければ牧師になっていたというだけあって、善悪をありきたりの二分法では描いていない。脚本はホール・シュレーダー。脚本が完成した時点で傑作であることを確信したらしく、あとは誰に撮ってもらうかの問題だったらしい。しかし実際は予想をはるかに越える出来となったのではないか。血のしたたるような傑作

vol. 007 「タクシードライバー」 1976年 アメリカ114分 監督:マーティン・スコセッシ
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『スケアクロウ』

 アメリカン・ニューシネマを語るうえで、欠かせない映画がいくつかある。「イージーライダー」や「タクシードライバー」、そしてこの「スケアクロウ」もその一つだ。若き日のアル・パチーノとジーン・ハックマンの演技が胸を打つ、不器用な二人のロードムービー。アルトマンの「ロング・グッドバイ」を撮り終えたばかりの名カメラマン、ヴィルモス・スィグモンドの撮影も素晴らしい。観終わったあとに何とも言えない余韻が残る名作。

vol. 006 「スケアクロウ」 1973年 アメリカ113分 監督:ジェリー・シャッツバーグ
illustration and text by : Yasunori Koga

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『ストリート・オブ・クロコダイル』

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 この作品はポーランドの作家、ブルーノ・ジュルツの「大鰐通り」を映像化したもの。朽ち果てた人形やネジ、ゴムたちが、命を宿したかのように動きまわる。幻想のようなしかしリアルな世界。この世界はクウェイ兄弟ならではとおもわれているが、実はシュルツの小説そのままと言ってもいいくらいだ。クエイ兄弟が以前からこの小説に影響を受けていたことがよくわかる。

人形をコマ撮りした、ストップモーションの映画なので全てが作り物。しかし、どこか現実以上に現実的なところがある。このような映像を芸術と呼ばずして、なにが芸術なのだろうか。

vol. 005 「ストリート・オブ・クロコダイル」 1986年 イギリス22分 監督:ブラザーズ・クエイ
illustration and text by : Yasunori Koga

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