『技法について』

イラスト こがやすのり 古賀ヤスノリ

 絵には沢山の「技法」というものがあります。「技法」とはある規則性のもとに描けば必ずそのようイメージになるという、手順を示した設計図のようなものです。よって誰が描いてもだいたい同じ結果が得られます。そういった「技法」が沢山あり、すべて誰かが作ったものです。よって何かの「技法」に従って描くときは、誰かの指示に従って描くことになります。つまり自分で描いているようで、自分で描いていない、という奇妙な状態で描いていることになる。
 自分で描いているようで描いていない。この矛盾した状態は、描くという「運動」(身体)と、誰の描き方かという「主体」(精神)の、二つの区別が曖昧なときに起こります。つまり他人の技法であるのに自分で描いていると考える時、そこには「運動」と「主体」の未分化な状態がある。あるいは、主体性を放棄しようとするとき、人は他人の何かを全面的に採用して運動だけになろうとする。ここに「技法への埋没」という自己逃避の形式が浮き彫りとなります。
 何かを始めるときに「技法」が確立されている場合は、それを入り口とすることは有効です。しかしそれに依存すると主体性は消滅してしまう。主体性が消滅すると、以後は他人の技法を採用し続けないと立っていられられなくなる。そのような状態は不安定であり誰も望まないでしょう。これは絵の技法に限らず、既成に存在するあらゆる基準(例えば世間体からネットの一般論まで)に依存すると主体性は消滅する。この危険性を回避するには「『自分の技法』の作り方」を自ら習得する必要があります。これは模倣の次元にはなく、創造の次元にしなかい。そしてこの「創造する能力」は誰もが潜在的にもっているものなのです。

AUTOPOIESIS 208/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『情報の相性』

イラスト こがやすのり 古賀ヤスノリ

 ネットを検索すればどんな情報でもすぐに出てくる。いや検索などしなくてもネット上にはどんどん情報が流れてくる。それを良くも悪くもたくさん浴びている。これは良い事なのかという問題があります。一般的な発想としては「情報が多いほど有利である」という見解です。しかしそれには一つ足りない条件があります。それは、情報なら何でもよいのではなく「必要な情報」が多いと有利だということです。もし不必要な情報が大量に入ってくると、「必要な情報」の邪魔をし相殺してしまうからです。それならむしろ「必要な情報」を少なくもっているほうが断然有利です。
 たとえばダンスを覚えようとして、あるダンスのステップを訓練する。しかし別のダンスのステップの情報も入ってきて、それも練習する。すると奇数のステップの訓練中に偶数のステップを踏み出すように、せっかく身に付きつつあるステップの邪魔をしてしまう。このように物事が非効率になる原因は、言葉の上での分類が同じだというだけで、実際は性質が逆の情報を取り込み、相殺現象が起こる場合が多い。つまり情報の「質的なレベル」で相性が良くない、という視点を欠いているということです。
 ある人が絵を描いていて、順調に上達しているとします。それはある一貫性のもとに枝葉を伸ばし成長している証拠です。そこにあるとき全くうかがいしれない枝が出てきたり、成長が緩慢になるときがあります。そんな時はこれまでとは質の違う「一貫性を阻害する情報」が侵入してきたことを示しています。この健全な成長に対するウイルスのようなものは、自分ではなかなか気づきにくい。なぜなら自分では必要な情報だと思って取り込んだからです。しかしながら、早期に発見し対処しないと、最後にはこれまでの秩序体系がすべて相殺されてしまう。この意味で、情報はただ多ければよいというものではなく「質的なレベル」での相性があり、それらを吟味して自分に取り込む必要があるということです。そして多様な「情報の相性」を瞬時に直感するには、個々人の「主体性」と「美意識」こそが必要なのです。

AUTOPOIESIS 207/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『負の安定について』

イラスト 古賀ヤスノリ

 安定ということばは基本的によい状態を指すことばとして使われます。つまり不安定の逆の概念としてあるものです。よって安定しているということは「不安定ではない」ことを意味します。この状態に価値があることは、誰もが認めるところです。しかし安定することが不安定であるような「矛盾した安定」というものもある。これは一見して安定しているので発見しにくいという問題をはらんでいます。
 安定することが不安定な状態とは、たとえば心も身体も病気になり、その状態が長い間続く時は、病的な安定状態を意味します。これを「負の安定」と呼ぶならば、何年も続く引きこもりや、不満を抱えたままの生活、それを結果的に作り出す組織(例えば家族や国)も、みな「負の安定」という矛盾した安定に陥っていると言えます。
 「負の安定」の一番の問題点は、内部の人々にとってはその状態が安定であると錯覚しやすいことです。そしてその構造を変えることが不安定(恐れ)を意味する。よって現状維持への執着が起こります。精神病理学の木村敏さんは、この現状維持への活動的執着を鬱病の病前気質(シグナル)だと表現されています。変化を恐れ、その状態に対する新しい傾向や影響は一切排除しようとする。このような「負の安定」は、考えることを放棄して、ただ活動だけに執着すると、あらゆるところで起こってきます。この「負の安定」という現象を対象化し、その構造を知ることで、「矛盾した安定」に対する予防や解決策が自然に見えくるようになるのです。

AUTOPOIESIS 206/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『多様性のシステム』

イラスト  こがやすのり

 多様性の尊重。この新しいスローガンが建前上にしても一つの社会的な基準となりつつあります。しかしその多様性を真の意味で実現するには問題が山積しているようです。例えば、多様性とは個々の個性が尊重されることで実現しますが、現在の社会はいまだ均一化と平均化を志向しています。つまりみなに同じ能力を平均的に求める社会は、一行に変わる気配を見せない。多様性とはそれぞれの長所と短所の違いを認め合うことで成立します。つまりそれぞれに欠点の場所が違い、それらを適材適所で補う高度な秩序体系が多様性の社会です。
 画一化と平均化の社会から、適材適所の「相補的な社会」への移行には、成果主義と効率化という資本主義の要を捨てる勇気が必要です。成果主義と効率化は、すべてを平均化し画一的な管理を旨とします。例外を許容すれば、数字にバラツキが出てしまう。この意味において成果主義は短期的な結果に依存したシステムだと言えます。それに対する多様性のシステムは、短期的なバラつきを許容し、より長期的な安定を目指す構造です。
 短期的な成果を求めるには、例外をなくし、すべてを平均的で画一的に管理するのが一番です。しかし「資本主義の形骸化」による弊害が社会に噴出してきた今、やはり長期的な安定を作り出す多様性のシステムに移行する時期に来ています。その最初のステップが、お互いの欠点とその違いを認め合い、弱点を補い合う「適材適所」の概念を一般化することです。この相補的なシステムは、人体がもつシステムと同じものです。人体の各器官は重複せずにそれぞれの役割以外のことはできない。しかし全体的に驚くべき機能を果たしています。この意味で多様性の社会は、人体のシステム(私たち自身)が大きなヒントとなると考えられるのです。

AUTOPOIESIS 205/ illustration and text by : Yasunori Koga
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『蝶になる方法』

イラスト こがやすのり

 蝶になるにはサナギの時間が必要である。自然にサナギの殻が破れるまで、殻の中で新しい組み替えを繰り返す。しかし自然にサナギの殻を破り、外へ出て行くタイミングを逃すと問題が発生します。外へ出るのが怖くなり、永遠と殻に閉じこもることになる。サナギの殻に閉じこもることの重要性は「適切な期間」に限られます。それを過ぎれば無意味どころか大きな害がある。
 通常は自然にサナギの殻を破るタイミングはやってきます。それが自然の摂理です。しかしサナギの殻が自分自身で作った殻ではなく、周囲によって人工的に作られた殻だとすれば外へ出るための「自然なタイミング」はやってこない。例えば周囲から押し付けられて出来たような殻には「自然に破れる」ということがありません。よって中にいる者はその構造に永遠と依存することになる。
 サナギの殻は芋虫のレベルで栄養摂取を続けた結果として、必然的に出来たものでなければならない。つまり自分の努力で作り出した殻だからこそ、自分に必要な組み替えと、殻を破る「自然なタイミング」が直感的に把握される。他人が人工的に作った殻には「自然なタイミング」がなく、ゆえに個体を内部で弱らせてしまう。芋虫が蝶になるためには、自分自身で作り出したサナギを、適切なタイミングで自ら破るという逆説が必要となる。そのことがイニシエーションの役割をはたし「芋虫と蝶」という不連続な谷間を飛翔させる力となるのです。

AUTOPOIESIS 204/ illustration and text by : Yasunori Koga
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